第3話 桃太郎誕生③
おじいさんは、とりあえずこの赤ん坊に名前をつけることにしました。特に愛着もなかったため、便宜上桃から生まれた桃太郎ということにしました。
「太郎なんて平凡な名前だが、人間は生みの親が名付けた名に従うのが風習らしい。」
文句を垂れながらも、少し満足げな桃太郎と裏腹に、おじいさんは不安に支配されながら山を登り、家に向かっていました。
「この桃太郎をおばあさんにどうやって説明すればいいのだ…」
大きな桃に発情して突っ込んだら子供が生まれたなんて話したところで、当然、受け入れられるはずがなかった。ましてやおじいさんはおばあさんの尻に敷かれていた。突然赤ん坊、いや、すでに6歳ぐらいに見える子供をつれていけば、浮気でもして子供を作ったと疑われるに違いない。そうなったら、命が何個あっても助からない…
そうこうしているうちに、おじいさんと桃太郎は家の前についてしまいました。おじいさんは、もう森の中で子供が迷子になっていたというしかないと覚悟を決め、家に入りました。しかしその瞬間、おばあさんの甲高い悲鳴が家中に響きました。
「どうして、全裸の男の子をつれているのよ!!!」
おじいさんはふと我に返り、桃太郎を見つめ、服を着ていないことに改めて気づきました。今までが異常事態だったから、完全にスルーしていました。
「騒ぐな。ババア。俺は生まれたばかりなのだから、服を着ていないのは当然だ。」
そこからはカオスそのもの。びっくりするおばあさん、流暢に煽る桃太郎、まだババア呼ばわりされるほど老けていないとキレるおばあさん、割って入るおじいさん、桃太郎が誰なのか問い詰めるおばあさん、俺は桃から生まれたと主張する桃太郎、そんなわけあるかと桃太郎に薪を投げつけるおばあさん。
「うるさいババアだ。黙れ!」
桃太郎はついに我慢ならなくなり、腕に力を入れました。そうすると、家の近くにあった杉に絡まる蔦が自由自在に動き出し、家の窓を打ち破り、おばあさんの体に巻き付き、そして縛り上げました。
この異常事態に、おばあさんは震えあがり、おじいさんは腰を抜かし、扉に逃げようとしましたが、動けずその場で足をばたつけるだけでした。
桃太郎は、家の真ん中にどっしりと胡坐をかき、腕を組み、高らかに笑い出しました。
「森において、俺に勝つことなどできん!だが、ジジイは俺の父親、ババアは俺の父親の後妻だ!俺が大切に養ってやろう!しかし、この家は感心しないな。この家の植物は生き生きとしていない。手入れが雑だ。植物が泣いている。」
そういって、桃太郎はさらに腕を上げ、握りこぶしに力を籠め、そして、一気に手を開きました。そうすると、どうしたことでしょう。家の中にあった枯れかけていた植物たちが元気を取り戻していきました。
それを見たおばあさんは、蔦に縛られ、苦しんでいるにもかかわらず、
「この力は、畑作業に助かり、作物を芳醇にし、私を豊かにさせる力だ」
と打算が働きました。そして、
「わかったわ。あなたと一緒にこの家に住むわ!これからあなたは私の息子よ!」
そういって、桃太郎を受け入れました。桃太郎も恐ろしいが、女の底力はいつの時代もとても恐ろしいものでした。
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