第2話 桃太郎誕生②

 桃との為があった翌々日、おじいさんはまた洗濯係として、川に向かいました。

 おじいさんは桃がばれずにそのまま残っているか心配で気が気ではありませんでした。おじいさんは変態だけれど、小心者でした。

 桃を隠した場所についたおじいさんは、桃が残っていることに安堵したのもつかの間、思わずつぶやいた。

「どうなっているんだ。これは…」

 桃の果肉は中央で割れ、まるで子宮を彷彿とさせる。その中央には赤ん坊がまさしく鎮座していた。小さい足と小さな腕であるから、完全にできてはいないが、まさに足を組んで腕を頬につき、俺がこの世界を牛耳るといわんばかりの態度であった。そして、さらに不思議なことに、あらゆる植物の蔦が桃の中央に向かい伸び、赤ん坊のへその緒へとつながり、栄養を分け与えている、いや、奪われているのであった。

 赤ん坊は、普通の赤ん坊がする泣き声ではなく、まるでおじいさんに対する怒りを主張するかのように泣き、その泣き声はおじいさんの耳をつんざいた。とてつもない恐怖に支配されたおじいさんは、声も出ず、後ろに後ずさり、逃げようとした。


「おい、ジジイ。俺を生んでおいて、なんて無様な姿だ。」

 さっきまで泣いていたことが嘘のようなはっきりとした口調。そして、しっかりとした語彙なのである。おじいさんはまさに桃とエッチした天罰が下ったと思い、思わずその場で神に祈りました。

「何を驚いている。貴様が男の遺伝子を注いだのだから、桃の遺伝子と結合し、生命が生まれるのは、それこそ今祈った神の作った通りだろうに。」

 おじいさんは、恐ろしくなって、赤ん坊の姿で流暢にしゃべる桃から生まれた化け物に、向かって、対熊用の銃を向けた。

「黙れ。しゃべったら撃つぞ!」

 赤ん坊は、目を見開いて、両腕をまるでおどけたかのように広げて見せた。

「待て。ジジイ。撃ってどうする。撃ったら俺の死体はどうする?銃声を聞いてだれか来るかもしれないぜ。それに、未知の生命である俺は、果たして銃で殺せるのか?」

 おじいさんは震えながら銃を構え続けることしかできなかった。


「ジジイよ。交渉しよう。このまま森に残されるのも少々しんどい。ここにいる植物たちも栄養がそろそろ限界に近い。俺を拾い、養え。そうすれば、俺は貴様に何もしない。本当だ。」

 おじいさんは、相変わらず震えてはいたが、徐々に冷静になり、そして、ふとこういった。

「栄養が限界に近いなら、このままにしとけばいずれ死ぬってことだな!わしは逃げるぞ。」

 赤ん坊はきょとんとしたあと、豪快に笑い言った。

「ジジイ。さすが俺の父親だ。だが、お頭がすこし弱いようだ。」

 そういって、赤ん坊は桃から立ち上がったのである。驚愕することに、赤ん坊はこの短時間で急激に成長し、先ほどまで組めなかった足は大きくなり、現代でいう幼稚園児の大きさにまで至っていた。

「桃とジジイのハーフである俺は、成長が早いらしい。すでに俺は自由に動くことができる。つまり、ここから村に行くこともできる。村に行って、俺がジジイと別の女の子供だっていうことだってできる。わかるよな。孕ませた責任、しっかり落とし前つけような。」

「すいませんでした…」

 おじいさんは、植物のへその緒をナイフで切り、もうすでに立って歩ける桃太郎とともに自宅へと戻った。

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