桃犬大決戦編
第4話 桃犬大決戦①
桃太郎はものの一週間ほどでこの時代でいう大学生のような見た目に達しました。おじいさんはこのままのスピードで大きくなっていけば一か月ぐらいたったらあの世行きになると喜びましたが、一か月、二か月たっても桃太郎の見た目は大学生のままでした。
それから十年が経ちました…
「踊れ!!戦え!!押し倒せ!!」
相撲場を模した会場に娘が二人、娘は靴下と首周りにリボンを着けるのみで他には身体を隠すものはありません。掛け声とともに女性たちは取っ組み合い、身体が土俵につかないように、土俵際から出ないよう、死に物狂いで闘っていました。それもそのはず。この勝負で勝った娘は桃太郎の妻の一人となり、負けた娘の家はここで滅ぼる運命なのですから。
相撲場の前には大きな台座があり、そこには桃太郎が踏ん反り返り、大いに笑い散らかしていました。右手には扇子、左手には女を抱え、身体には四、五人の女を侍らせていました。
試合は終盤に差し掛かり、片方の娘が土俵際、最後の断末魔を上げながら耐えつづけていました。桃太郎はその断末魔を聞き、一気に興奮し、思い切り立ち上がり、台座をぶち壊し、女性たちを薙ぎ払い、雄たけびをあげました。その雄たけびが最後の一押しとなり、土俵際に追い詰められた娘は土俵外に足を付き、負けてしまいました。
負けた娘は、その場で泣き崩れ、座り込んでしまいました。勝負がつき、会場は熱気を帯びていましたが、桃太郎は急に冷静になり、その娘のもとにまず向かいました。
「よく頑張った。なかなかいい試合だった。」
桃太郎はその娘の頭を撫で、励ました。娘は予想外の賛辞と優しさに、安堵と少しの期待を抱き、桃太郎を見上げました。そんな顔を見て、桃太郎は満足げに笑い、そして言いました。
「だが、負けは負けだ。貴様の種族は今日ここで滅びる。」
桃太郎が手を開くと、娘の頭にある髪飾りは一瞬で枯れ果てました。娘の髪飾りはその家系の繁栄の証でした。それが枯れたということは、娘の家族の農園の植物は枯れ果て、残り数か月をも乗り越えることができないことを表していました。娘の顔からは期待は消え、真っ青になりました。
桃太郎はその次に、勝った娘のもとへ行き、そして言いました。
「お前は強い。強いものこそ美しい。俺のもとに就くにふさわしい。さらに鍛えよ!!磨け!!己自身の強さを!!」
そう桃太郎は言い放ち、勝った娘を強く抱きしめました。会場はさらに盛り上がり、桃太郎と勝った娘を祝福する拍手が鳴り響きました。負けた娘を、その家族を擁護する人はその会場には誰もいませんでした。いや、たとえ心の中で思っていたとしても口に出すことなどできなかったでしょう。
桃太郎は十年の時の中で、自分の力とカリスマ性にものを言わせ、資本主義に徹した大農園社会を築き上げていました。その社会では桃太郎に逆らうことなどできません。逆らえばその一族の農園は大不作に陥り、滅びる定めなのでした。
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