読んだら呪われた企画

ウボァー

ある物書きの実録

 ――きっと、それを見てしまったのが、全ての始まりだったのです。



「【読み合い必須】読んだら呪われる小説募集!」



 SNSにて唐突に流れてきたその企画は、ほどほどに交流がある人が主催者となっていました。

 下記は企画より一部文章を抜粋したものです。


***


・書き下ろしであり、かつ、総文字数10000字以下の「読んだ人が呪われる」小説のみ参加可能。

・企画参加者は今年中に『必ず』すべての参加作品を読了すること。


 これは読み合い企画です。


総則に違反した参加者は呪われます。


***


 ふざけてるなあ、それが率直な感想でした。


 だって読んだら呪われる小説ですよ? それを集めて何がしたいのかわかりません。

 読んだら呪われる、参加した場合は参加作品――読んだら呪われるお墨付き――を全て読まねばならない義務が発生する。その義務を無視しても呪われる。

 ……びっくりするぐらい誰も得をしない!


 ……まあ、主催者はまあ呪われ志願者を見て笑いながら美味い酒を煽るんだろうな、ぐらいは想像できましたけど。


 で、企画について読み進めていくと、私は気付いてしまいました。

 読了はしなければならない、なんてあるけど主催者が読了をどうやって判断するのかを決めていないから「(ホントは読了してないけど)ちゃんと読みましたけど?」な顔でバックれることも可能だな、と。


 つまり、変な企画だけど逃げ道もあるっちゃある。読んだけど読了報告忘れちゃいました。そう言い張ることができる。


 じゃあ、他の人に読まなきゃいけない義務だけ発生させてみるか〜! という悪ふざけを含んだ軽い気持ちで呪いの小説に手を出してみようとカクヨムを開いて……すぐに私は動きを止めました。



 ――呪われるって、具体的にどうすればいいのだろうか。



 オチがない小説は書けません。

 ……いや、書けなくもないですが「これで終わりなの?」感が自分につきまとうのでなんかイヤなんです。


 私は呪われた経験なんてありません。小説をきっかけにしてどんな呪いが現実に起きるのか、その例がありません。

 ……ああ、そういえば作者は経験したことしか書けない、なんて揶揄されることもありますがそれはほぼウソです。

 異世界モノ書いてるうちの7割ぐらいは異世界召喚されてます。オリジナルカードゲーム小説書いてる人は闇のゲームで命を落としかけた経験だってあります。


 ……とかなんとか書いてる私は体験したことのない話ばっかり書いてますけど。




 ――呪われる小説なのに、肝心の呪いについてのネタがない。



 ちゃんとしたホラーをこれまで書いたことがない私にとって、呪いの小説執筆とはとんでもない難題だったのです。

 使うのを好まない人もいるけど仕方ない、とAIに聞いてみたりもしましたが……すぐにするべきではなかったと後悔しました。


 AIは学習したことをもとにして回答します。だから、「読んだら呪われる小説のネタを考えて」なんて質問しても、実際にインターネットに転がってる呪いをモチーフにした物語をさもAIが考えましたよーな顔でお出しされる可能性が殆どです。


 AIからのネタを見てしまったことで、それがずっと頭の中に残ってしまい。オリジナルの呪いを――そう考えれば考えるほどに、「さっき見たものから影響を受けているんじゃないか?」「すでにある作品とネタが被っているんじゃないか?」が頭をよぎります。


 食事時にもふと考えます。呪いとは一体どうすればいいのか。

 風呂に入りながら考えます。呪いとはどのぐらいのリアリティが必要なのか。

 寝る前に考えます。呪いとはどうあれば怖いのか。


 読んだら発動する呪いってなんだろう。その疑問だけでこの話は書かれました。

 書かれてしまいました。


 ねぇ。

 読んだら呪われる小説、貴方も疑問に思いませんか?


 貴方も呪いの小説を手がけてみませんか?

 私に答えを与えてくださいませんか?

 その呪いはいつ発動しますか?

 周囲を巻き込みますか?

 現実的ですか?

 そもそも何故こんな小説を読んでいるのですか?

 もしかして企画の参加希望者ですか?

 進捗いかがですか?

 いつごろ投稿できますか?

 どのような呪いを見せてくれるのですか?



 はやく教えてくださいよ。


 ねぇ。

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