第3話

「矢面ー。矢面イチカー。矢面は今日も欠席か」担任が出席簿を閉じた。ぼくは退屈で死にそうだった。先日の試験だって全教科満点だったし、やることがない。いっそ新しい宇宙人に来てもらおうか。

 放課後、ぼくはいつも通りイチカの家へ向かった。マンションに着き、ドアを開ける。鍵はかかっていない。コンソールに向け「異常なし」と打ち込んだ。すると足首を掴まれた。振り返るとイチカが満身創痍のていでぼくに手を伸ばしている。「はあ……はあ……、雅……」「生きていたか。さすが宇宙人は頑丈だな」

 一ヶ月ほど前ーー。ぼくはイチカに「タバコ」を投与した。実はこれ、紙巻きの大麻であり、そのオーバードーズによって彼女を廃人としたのだった。そして今まで飲まず食わずであったはずだが、今こうして生きている。ぼくは感嘆した。

「ふふ……雅……はあっ、はあっ……わたしは……一途でしつこいぞ……」なんと、自分をにしたぼくにまだ好意を抱いているのか。さて、どうしよう。飼って性奴隷にでもするか?「ちょっと待ってろ」と言い、ぼくはコンビニへ向かった。そして弁当三つと2リットルの水を買って戻ってきた。「ほら、エサだぞ」食事を提供すると、イチカはそれに貪りついた。水を一気飲みし、「ぷはー、生き返るぅ」と笑顔を見せた。ぼくは訊いた。「次は風呂だな。立てるか?」「立てなーい。起こしてー」と言うので、お姫様抱っこしてやり、脱衣所まで連れていった。「あとは自分でやれよ」「むーりー。脱がしてー」「アホか。じゃあそこでくたばれ」と言いぼくはマンションを去った。帰り際にイチカが何かギャーギャー騒いでいたが、無視した。

「おかえりなさいお兄さま♡ お風呂にんんっ」ぼくは帰宅するなり、華子を一方的に犯した。「獣のようなお兄さまも素敵ですぅ」ぼくは妙な安心感を得た。


 その翌日。イチカが学校に現れた。「雅、おはよ〜」「ああ、おはよう」そういえば、イチカはなんで地球人を滅ぼさなければならなかったのか? ぼくは原理的な問いを思いついた。「なあイチカ。星間統治機関はなぜ地球人を滅ぼすと決めたんだ?」「え、知らなかったの? 雅の上官は何て言ってあなたを派遣したの?」「ああ、あれは嘘だ。ぼくはただの地球人だ」「え! ええええええ! わ、わたしは単なる人類に負けたっていうの……」「まあそれはともかく。それでイチカ、木星人の目的を教えろ」「分かった。あのね、わたしたちが観測する限り、この銀河にはあちこちで人類が発生していることが分かったの。で、そのなかでも最も身体と科学が発達しているのがわたしたち木星人ってわけ。それで来るべき人類同士の星間戦争に至る前に、未熟なままの他星人を殲滅しておこうってのが機関の考えなの」「なるほど。しかし星間戦争ってのは飛躍しすぎじゃないか。分かり合うことだってできるはずだ」「うーん、どうだろうね。組織の末端であるわたしは命令に従うことしかできないな」「よし分かったイチカ。ぼくを木星に連れて行け」「ええっ、そんなことしたらわたしがどんな目に合うか……」「お前はぼくが守る。大丈夫、うまくやるさ。そんなくそったれな組織のせいで殺されてたまるか」「雅がそこまで言うなら……。いや、雅ならできるかもね。分かった。じゃあ放課後いっしょに基地へ行こうね」

 ぼくは華子にしばらく帰れない旨のLINEを送信した。そして放課後、イチカの部屋にて。

「こっちこっち」イチカは壁の一面をくるりと裏返し、隠し部屋へぼくを案内した。そこにあったのは、ドラゴンボールで見たような宇宙船だった。「この星で言う『ボソンジャンプ』をするから木星まであっという間だよ」今度は機動戦艦ナデシコか。地球人の想像力もやるじゃないか。「準備オーケー? じゃあ行くよ」イチカはコンソールを操作し、宇宙船は唸りを上げた。かくしてぼくは地球人初の宇宙の旅を敢行した。

 ぼくの知る限り、木星は人類が繁殖できる環境にない。だがそれは地球人の場合だ。木星人は地球人よりも進化している由。見せてもらおうか。木星での新人類の生活とやらを。

(つづく)

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