第8話 白煙の闇討ち
「なんだかな」
私は森の中に身を潜めていた。
顔だけを覗かせ、状況を改めて確認する。
一言で言おう。流石に盗賊団相手にはムカ付く。
「クソみたいな奴等だ」
集団で弱い者を虐める。何処の世界でもある話だ。
人間らしいと言えば人間らしいのだが、流石に同情する。
「子供を守ろうとした大人を痛めつけるなんて。しかも私の食事を邪魔したなんて……重罪だよ」
一番重いのは私の食事を邪魔したことだ。
眉間に皺が寄り、盗賊団一行を目の敵にする。
それにしても……グゥーとお腹が鳴る。
「ううっ、カロリーが」
私の体がカロリーを欲している。
持って来た豚足も食べてしまった。
流石に身体ができ上がったばかりだと、お腹が空いて仕方が無い。
「とは言え、普通に殺すのは簡単でも、子供に見せるには……よし」
碇が沸き上がってくるが冷静に処理。
イライラを上手く抑え込み、如何やって粛清しようか考える。
もちろんただ殺すだけなら造作もない。私には命の重さが無い。
けれどこのスプラッとな惨劇を子供に見えるには酷だ。
きっと後で叩かれるのは間違いないので、少しだけ手をこまねく。
「私に応えろ、【彩奪】」
私は左手の甲に魔法紋章を出した。
浮かび上がった紋章をクルクル回す。
いつも通りホイールを回転させると、狙いの魔法を見つける。
久々に使うが、上手く作動して欲しい。
「【彩奪】ホワイトスモーク」
私が使ったのは【
昔頼りになった老爺から受け取った魔法で、その効果は非常にシンプル。
私を飲み込む勢いで白い煙が溢れ出すと、周囲全体を覆い隠す。
「よし。上手く行った」
ホワイトスモークはただ煙を出すだけ。しかも真っ白な煙だ。
シンプルかつ単純。だけどそれが効果的。
実際、背後から咳き込む声がした。
「(ゲホッゲホッ)な、なんだ!?」
「ま、前が見えない」
ホワイトスモークのせいで周囲は完全に白の世界。
充満した煙は引火の可能性も高い。
そんな危険な状況。あらゆる方向感覚を喰ってしまうと、目を開けるだけでも困難になる。
「よし。後は……【彩奪】」
私は充分な煙が充満すると満足した。
左手の甲の魔法紋章をもう一回操作する。
次は【
「クソッ、一体なにが起きて……(あっ)」
混乱する男性の後ろに立った。
完全に気配を消して、鼻息一つも荒げない。
無音になって手刀を振りかざすと、トーンとやった。
「簡単な作業だなー」
私は手刀で一発。首をトンとやって相手を気絶させる。あれと同じだ。
けれど私がトンとすると、首の骨が折れてしまった。
一発で絶命してしまう。お気の毒だって言っておこう。
「よし。次だ次」
私は一人倒すと次の敵を見つける。
盗賊団はまだまだいる。
みんな私の煙を前に完全に方向感覚を失っていた。
「ちょっと、一体何処から? 私達以外にも狙っている奴らがいるの?」
「いるよ」
今度は女性の背後に立つ。
腕をブンブン振って危ないので、上手くぶつからないように攻撃。
手刀を繰り出して、今回も首をトンだ。
「(ゲホッ!)……」
女性は意識を失った。ちょっと甘かったのか、息はある。
殺し切れなかったけれど、それならそれでいい。
光に裁いて貰おう異にし、私は次の男性を狙う。
「クソッ、前が、前が……目が痛い」
「それなら閉じよっか。永遠に」
私は宣言通り、男性に永遠の眠りを上げることにした。
これで目が痛くなることもない。
変に煙を吸って苦しまなくても済む。
「(ヒムッ)……」
男性は倒れてしまった。今回は強すぎたせいで一発で即死だ。
うつ伏せで倒れ、ピクリともしなくなると、私の言葉が怖くなる。
「この調子でドンドン行こう。一人以外は……」
とりあえずこの作業を後数回繰り返す。
もちろん全員をやっちゃうことはしない。
そんなことしたら裁かれる人がいなくなるので、一人だけ生かす気だ。
「あの男性が丁度良いかな?」
それならリーダー格が丁度良い。
私は冷静に口元を覆い、目を瞑っている男性を見つけた。
「それじゃあ残りは……要らないや」
私はニヤリと笑みを浮かべた。やっぱり心は壊れてしまっているかも。
クロノエラから注意されたことを片隅に思いだすと、私は一人ずつ消し飛ばす。
パタリと倒れて行き、煙の中なにも見えない中で、得体のしれない何かに襲われる人達を眺めた。
パタリ……パタンパタンパタン!
「な、なんだ。なにがどうなってるんだ!?」
「どうなっているんでしょうか?」
「怖いです。怖いですよ、シャルム」
怯える三人の声。やはり一人分足りない気がする。
私は首を掻きながら、この状況を無に感じる。
流石にやりすぎなのは分かる。だけどこれ以上にできることが無い。
「おい、姿を現わせ。誰かいるんだろ!」
「誰かって誰でしょうか?」
「分かりません。ですが、私達を助けてくれているみたいです」
「それじゃあ正義の味方なんですね!」
「正義の味方……ですか」
様々に思考を混ざり合った。
複数の考えを私は耳にする。
そのせいか、とてもじゃないが正義の味方にはなれない。
私自身に“正義の味方”を自称することはできない。
「正義の味方じゃないんだけどな」
子供は純粋だった。きっとまだ命の重さが分かっているんだ。
私は少しだけ、胸を押さえて苦しんだ。
白い煙の中、私はリーダー格を相手にし、生け捕りを狙った。
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