第6話 けたたましい地響き
チリチリチリチリ——
香ばしい香りがする。
目の前には大きめに組んだ薪。
私は口の中一杯が涎に侵食される。
「あー、ヤバい」
私はとにかくお腹が減っている。
そのせいか、空腹が頂点にまで達している。
「お腹が減りすぎてる」
目の前には薪に炙られる巨大イノシシ。
バーベキューボアの背中が焼けている。
丸焦げにならない程度に、毛や皮を少しずつ、丁寧に焼いてみた。
「美味そう(ジュルリ)」
私は涎をついつい垂らしてしまう。
けれどこれは仕方が無いことだ。
バーベキューボアは脂身が多い。その脂には、非常に濃い甘みを含んでいる。
それが焼ける度に滴っていた。
鼻腔を劈く様なとても良い香りがする。
人間の食欲をそそらせると、私は今すぐにでも食べたい。だけどまだダメだ。
「でも参ったな……このサイズだもん」
流石に想定以上の大きさだったのは今更だけど否めない。
そのせいか、焼けるまでに相当時間が掛かる。
火力も足りていないのか、表面しか炙れていない。
「仕方ない。あんまりやりたくないんだけど……」
左手の甲にソッと触れる。魔法紋章が浮かび上がった。
クルクルとホイールを回すと、【
もちろん私の魔法、【彩奪】の一つとして使った。
「【彩奪】フレイミング」
薪に火炎を注ぎ込んだ。
轟々と燃え滾る炎が、薪を汲んで、少しずつ燃やす。
パチパチと心地のよいメロディーを奏でると、私は楽しみになってしまう。
「うん、【
一個だけ残念なことがあった。それは調味料の存在。
私はバーベキューボアを家に持って帰ることを断念する。
そのせいか、他の魔物に食べられるのも癪なので、調味料もまともに使えなかった。
「まあ塩コショウがあればなんとかなるでしょ。何処の世界でも、私の舌はアレだから」
とりあえず塩コショウと醤油・味噌・酒。これだけは持ち運んでいる。
そのおかげか、簡単な下味だけになった。
シンプルな味だからこそ、サバイバル感が増す。これぞスローライフ。自由だ。
「よし。そろそろいいかな」
私は火加減を調整し終え、早速切り分けにする。
今こそ剣の出番だ。私は右手を剣の柄に掛ける。
まさか最初の相手がお肉の切り分けになるとは思わなかっただろう。
「ヒトウガツもこんなこと想定してなかったんだろうな」
まあそんなの私に渡した時点で決まっている。
ありがたく使うことにした私は、剣を鞘から抜いた。
一気に切り刻もう。そう思ってバーベキューボアをスパッとやろうとした瞬間、背後からもの凄い轟音が聞こえた。
ズド―――――――――――――――ン!!!
「ん?」
今の音はなんだろうか。明らかによくないものだ。
踵を返して振り返ると、遠くの方で騒音になっていた。
大きな土煙が上がっていると、モクモクと空へと舞う。
「なに、あれ?」
私は瞬きをしてしまった。
何だかよくない気がしてしまい、ポカンとする訳にもいかない。
頭を掻くと、何処からともなく鳥達が空へと逃げる。
「魔物じゃない生き物が逃げ帰ってる。これは……」
私は目をソッと閉じる。
瞼を閉じて見えて来た景色。
音の元凶を見つけようとすると、視界に薄っすらと映像が浮かび上がる。
「これは……馬車?」
私の視界に映り込んだのは馬車だ。
何故か止まってしまっていて、木の幹に叩き付けられている。
その原因が何か。馬車を取り囲む何人もの人間の仕業だ。
「コレは……うわぁ、武器を取り出した!?」
取り囲んでいるのはほとんどが男性。
何人か女性も居るが、女性らしさはない。
完全に盗賊団で、如何やら馬車は止められてしまったらしい。
「うわぁ、可愛そう。これは終わったね」
正直他人事だった。
昔の私なら勇者パーティーの一員として助けに行っていただろう。
けれど今は違う。私はお腹が減っているので、自分を優先しようとした。
「まあいっか。私には関係ないってことで。それよりご飯ご飯」
私はバーベキューボアを切り分けようとする。
けれど背後からザワザワと物音がしてしまう。
気になって耳を澄ませると、左右を駆け抜ける生き物達が居た。
「「ワフッ!」」
「邪魔だ」
私は平手打ちをして飛び出して来たオオカミを捻り潰す。
首を叩かれたせいか、そのまま絶命してしまう。
食事前の私の邪魔をしたからだ。悪く思わないで欲しい。
「なんでオオカミが? ん……この種、この森にはいない筈」
現れたのはオオカミの魔物。
けれど私が見たことが無い。新しくこっちにやって来たのかもしれないが、本来生息していない筈のオオカミ種だ。
意外や意外。首を見てみると、分厚い首輪がしてあった。如何やら人間の仕業のようで、私はムカついて仕方がない。
「私の食事を邪魔するなんて……許せないな」
グゥーとお腹が鳴り出した。
もの凄くお腹が空いているのにこの仕打ちは無い。
私はムカついてしまい、少しだけ怒りが溢れる。
「絶対原因は盗賊団だ。……殺すか」
私は過激発言も問わない。
グゥーグゥーとお腹が鳴り続け恥ずかしい。
これじゃあゆっくり食べられそうにないので、先に盗賊団を叩きのめすことにした。
「そう決まれば……【彩奪】スラッシュハンド」
私は手刀でバーベキューボアを解体。
持ち運びやすいように豚足を手にすると、盗賊団の元へと向かう。
ちょっと急ぐ必要がありそうで、私はついでに馬車の乗客を助けることにした。
「私の邪魔をしたこと、後悔しろ」
ちょっとだけ目付きが怖くなる。苛立っているのは確実だ。
地面を蹴り上げ、森の中を逆走する。
狙うは盗賊団の命。叩きのめす気なんてない。命を奪うことしか想像しない。
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