第4話 新しい身体

 誰も居ない家の中。

 そのリビングに陣が開いた。


「うっ……」


 その陣は世の理から外れている。

 明らかに魔法ではない何かが働いているのは確実。

 眩しい光が迸ると、その中から倒れ込むように私は現れた。


「うわぁ、げほっ!」


 体がフワリとしてしまった私は、膝を床に付いた。

 やっぱり新しい体……いや身体は慣れていない。

 そのせいか、体がフラフラしてしまう。


「うわぁ、体が……とりあえず、転生は成功かな?」


 私は近くのソファーに腕を付く。

 何だか立ち上がってみると、今度はバランスを崩してソファーにもたれかかった。


「痛たたたぁ……ああ、なんで、こんなことに」


 勢いよくお尻をぶつけた。普通に痛い。

 一応柔らかい素材の筈だが、それを貫通したのは体のせい。

 前回に比べて体重があり、私は違和感を覚える。


「一体どうして……まさか」


 私は姿を見つけた。ちょっと気になる。

 這うようにして姿見に近付いた。

 膝を付いて立ち上がり、私は姿見に映った自分を見つめた。


「まさかとは思うけど……やっぱりだ」


 やっぱりこうなってた。思った通りのことが起きていて、私は呆れる。

 もちろんこれは完全ランダムだ。

 けれど今回の私は、如何やらこっちの性別らしい。


今回の人生は男・・・・・・・か」


 私は男性の身体を手に入れた。

 前回が女性だったので違和感は感じる。

 もっとも、私は両性。性別なんて超越していた。


「なるほど。だから剣ってことなんだ。安直だなー」


 男性の身体を得たからには剣を貰った意味も分かる。

 私は腰に携えた剣を見つめた。

 盗賊のようなスタイルで剣を横に差すと、私は頬を掻く。


「でも、私は剣を使ったこと無いんだけど」


 正直私は剣を使ったことがほとんど無い。

 今までもこれからも魔法一般で戦うつもりだった。

 けれど前回の人生で魔法を使う以外の戦い方をしたせいか、今回は剣を支給されてしまった。しかも特別な代物だ。


「折ったら怒るんだろうな。折れないけど」


 大切に使わないと怒られてしまうだろう。

 私は剣の柄を撫でると、とりあえずソファーに腰を据える。

 一旦冷静になって考え事をする。


「さてと、とりあえず転生はできたとして、どうしようかな」


 とりあえず今回の人生は役回りが無い。

 前回は最強の魔法使いとして、勇者パーティーに参加。

 魔王討伐に動いたが、途中から薄々勘付いていた。


「この世界、アレからどのくらい経ったんだろう?」


 確か同じ世界に転生した筈だ。

 しかしアレからどのくらいの月日が流れたのかは知らない。

 恐らく十年くらいだろうか? 家の中の埃を見て私は想像する。


「まぁ、私のことを覚えている人は誰もいないだろうけどさ」


 そんなことより大事なことがある。

 私はお腹を押さえると、グゥーと鳴り出した。


「ううっ、転生する度にお腹すくのはなんとかならないのかな?」


 新しい身体はクロノエラが作ってくれたもの。私の魂の器として用意してくれている。

 いつものことながら年齢は最初に死んだ頃、二十代に入るか入らないかの前後。

 私は体を作らないとダメだと思い、とりあえず冷蔵庫を漁る。


「なにかあったかな? いや、あってください。お願いします」


 この異世界で絶対にあり得てはいけない道具。

 一体いつの何所の世界のものかは分からないが、かなり近未来的。

 インテリアとしてファンタジー世界にもマッチしているが、中を開けたら一変だ。


「うわぁ」


 中には乳製品ばかり入っていた。

 流石に腐ってないか? と思い、恐る恐る腕を突っ込む。

 手にしたのはチーズで、私は袋を開けてみた。


「(スンスン)腐っては無いみたいだけど。あっ、行けそう」


 一応食べれそうではある。

 私は口の中に放り込むと、口の中一杯にチーズの香りが広がる。


「(ペッ!)な、なにこれ。不味い。不味すぎる!」


 これが何と説明したらいいのか分からない。

 とりあえず嗚咽を漏らしたのは予想外で、普通に不味い。

 ペッペッと吐き出すと、私は最悪の目覚めをした。


「うわぁ、これ起きた。完全に起きたよ」


 私は意識が覚醒した。

 確実にここは異世界で私は転生に成功している。

 身体の調子もバッチリで、ようやく体としての意識を得た。


「さてと、お腹はまるで満たされてないと」


 転生直後は体があらゆるものを欲している。

 まるで栄養価が足りない。そこで急速にエネルギーを取る必要がある。

 

 幸いにもここはスタート地点として恵まれている。

 私は家の外を窓から見回した。


「森もある。川もある。空は晴天だね」


 絶好の狩り日和だ。

 私はせっかく貰った剣を試しに使って見ることにした。

 柄の部分をギュッと握ると、お腹を満たすために出向く。


「さて、まずは狩りだ。スローライフっぽくなって来た!」


 私は装備はそのまま、まともに戦える道具じゃない。

 けれど剣と魔法がある限り負けることは無い。

 圧倒的自身が心の底から湧き上がると、私は家を出た。

 そうして私の視界に映り込む景色。それは……


「変わってない?」


 やっぱり直近十年前後の世界だ。

 私は森に囲まれた我が家を見回す。

 相変わらずのシンプルさが売りの家を安心し、私は早速近くの森へと向かった。

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