第3話 竜血シャワーとダンジョンの秘宝


全長200メートルに及ぶ嵐の雷竜ストーム・サンダードラゴンの巨大な死骸。その隣に立つ宮本は、身長1.73メートルの小柄な姿が、まるでアリのように見えた。


「さて、ダンジョンモンスター図鑑に嵐の雷竜のことなんて書いてあったかな……」

宮本は考え込む。


「えーっと、要約すると、『全然わかってない』ってことだな……」

何しろ、人類の力ではまだ伝説級のモンスターを倒すのは夢物語だ。

「まあ、だったら俺の想像力で補えばいいってことだ!」

宮本はニヤリと笑い、一つの結論にたどり着く。

「とりあえず、竜血でシャワーでも浴びるか!」


竜血に浸かれば魔法耐性が劇的に向上し、伝説の『魔法攻撃無効体質』に達する可能性がある――もっとも、それが成立するのは黒竜王の血の場合だけだが。

「まあ、マンガだとそういう設定だしな……」


彼は自嘲気味に笑いながらも、自分の計画にワクワクしていた。

「どうせ死ぬんだしなー、怖いものなんてない!」

トムール大草原に夜が訪れる中、宮本はまるで勤勉な働きアリのように動き回った。


嵐の雷竜の胃袋をくり抜き、特大バスタブを作り上げ、その中には粘性のある竜血をたっぷりと満たした。

深呼吸を一つしてから、宮本は勢いよく竜血へとダイブした。



1時間後

竜血に浸かった宮本は、胃袋バスタブから這い出てきた。血にまみれた彼は腕を振り回しながら、新たな力が全身にみなぎるのを感じた。

しかし、それ以外の目立った変化は見当たらない。

試しに雷竜の口の中へ入り、巨大な竜牙を両手で抱えてみたところ――


ガキンッ!

2メートルもの鋭利な竜牙を力任せにへし折ることができた。重量100キロを超える竜牙を肩に担いでも、木の棒を持つような軽さしか感じない。

「これは使えるぞ……!」

手に入れた竜牙は、素材の切り出し効率を飛躍的に向上させた。


2日後

宮本は嵐の雷竜を完全に解体した。以下はその成果だ:

竜筋:1本(縮小後)20メートル

竜牙:18本(サイズは2メートルから0.5メートルまで)

竜鱗:1688枚(無傷)、2012枚(破損)

竜骨:103本(無傷)、115本(破損)

竜眼:2つ(直径0.7メートルの青い結晶状)

竜爪:1対(結晶化、やや破損)

竜翼:1対(繊維化、深刻な損傷)

竜尾:1本(縮小後15メートル、深刻な損傷)

竜肉:高品質17トン

竜血:約1500リットル(雷竜の胃袋に保管)


宮本は作業中、喉が渇けば竜の血を飲み、腹が減れば竜肉を焼いて食べた。伝説級モンスターの肉を味わえる機会など、世界中探してもほかにはないだろう。

また、雷竜の威圧感のためか、3日間の間、ほかのモンスターが一切近寄ってこなかったおかげで、作業は予想以上にスムーズに進んだ。


焚き火の前に腰を下ろした宮本は、自分の体ほどもある竜のフィレ肉を抱え、豪快にかぶりついた。竜血を浴びた後の宮本は、食欲が異常に増しており、30キロの竜肉も1食分に過ぎないほどだ。


食事を終えた宮本は懐から海色の古びた指輪を取り出す。これは嵐の雷竜の脳髄から掘り出したものだった。

「空間リング……」

内部には50×50×50メートルもの広大な空間が広がっている。


「この指輪、間違いなくダンジョン秘宝の一種だな……」

「戦闘力を直接強化するわけじゃないけど、その実用性は抜群だ。これなら、この大量の雷竜素材を無駄にせずに済む。」


ダンジョン秘宝にはさまざまな種類があり、優劣はあるものの、そのどれもが非常に希少で貴重だ。そしてそれぞれ異なる効果を持つ。

空間系の秘宝は特に稀少で、宮本のようなダンジョン配信の忠実な視聴者でさえ、聞いたこともなければ見たこともないほどだった。


彼がフォローしている複数のY社トップクラスのダンジョン配信者たちでさえ、この種の秘宝を持っている者はいない。

たとえ、トップ10探索者の一人であり、SSS級配信者の大島蒼悟のように、三つの強力な秘宝を操る人物であってもだ。


秘宝の操作はとても簡単で、すべては使用者の精神力によって駆動される仕組みだ。


左手の人差し指に空間リングをはめた宮本は、ただ念じただけで、目の前に山のように積まれていた雷竜素材がすべて消え去り、指輪の空間内に収められた。

「すごっ……!」


取り出しては収め、また取り出しては収め……。

宮本は、まるでお気に入りのおもちゃを手に入れた子供のように夢中になって遊び続けた。



30分後

血に染まった草原には、雷竜の存在を示す痕跡はほとんどなくなっていた。宮本は次の目的地へ向かうべく立ち上がる。

「次は、もう一頭の伝説級モンスターの死骸だ……」


しかし、どれだけ進んでも黒い液体に覆われた怪物の姿は見当たらない。


「おかしいな……確かにここに落ちたはずだが……」

そのとき、地面から黒い糸状の物質が音もなく現れ、宮本の足に絡みついた。それは背後を通り、シャツの襟元から入り込むと――


ドンッ!

糸状の物質が肌に触れた瞬間、宮本の体内へと侵入。激しい頭痛に襲われ、宮本は地面に崩れ落ちた。

「これって……脳腫瘍か…医者にはあと3カ月あるって言われてたのに……」


激痛に耐えながらも、宮本の心には満足感があった。

「伝説級モンスターを解体したのは俺くらいだろう。日本中のダンジョン探索者100万人が束になっても、こんな功績は挙げられないはずだ……


 頼む……天国には、冷たい元妻も、暴君みたいな上司も、偽善な友人もいないでくれ……」



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