最終話
目を覚ますと、俺はアスファルトに転がっていた。
隣には、倒れたバケモノとペシャンコになった車があった。バケモノと車がクッションになったおかげで、俺は
「ありがとな……」
動かない生命と機械に
見上げれば、雲と人っぽく見える何かが衝突を繰りかしていた。言うまでもなく、あいつらだ。
「い、今のうちに逃げなきゃか」
その時、足元でにゃーんと鳴く声。
足元を見れば、黒猫が俺の足に頬をすりすりさせていた。
「コイツもバケモノ……ってことはないよな」
ネコは肯定とも否定ともつかない声で鳴き、歩きはじめる。が、ちょっと行って、こっちを振り返った。
「ついてこいってか……?」
ネコはふたたび鳴き、歩きはじめる。
そのちいさな背中を俺は追いかけることにすれば、街の見たことのない空間に入りこんでしまった気がした。
いや、見た感じは町そのものなんだが、空気が違う。例えるなら、街が水没してしまったような、あるいはあるはずの人混みがないみたいな違和感だ。
ネコは、不可思議な空間を歩きつづけている。
そういえば、SF作家が、ネコは超次元を行き来してるって言っていた覚えがある。俺はその超次元ってやつを歩いているのかもしれなかった。
どれくらい歩いただろうか。
気がつけば、目の前にドアがあった。
俺んちのドアだった。
黒猫の姿はどこにもない。
「もう意味わからんな」
カギを開けて、中へと入る。
外の騒々しさがウソのように、部屋の中は静まりかえっていた。
とりあえず、リビング行って救急箱を――。
そう思ってリビングへ行けば、
彼女の手には、オレンジジュースがなみなみ注がれたグラスがあった。
一瞬、うげ、という表情をしたかと思ったら。
「ケガしてるじゃない……」
グラスをテーブルに置いた紫亜が、俺の手を取る。その手つきからはいつもみたいな乱暴なところがなかった。
「なにがあったの」
「別に――」
「いいから教えろっ!」
腰のあたりを殴られる。力以上に俺は驚いた。
紫亜がそうやって声を荒げているところを、俺ははじめて見た。
その紫色の瞳が、今にも
「もしかして、だれかに襲われたんだな」
青かった頬に赤みがさしてくる。思わず伸ばした手がそっと、だが力強く払いのけられる。
「ワタシには、作流を守る責任と義務がある」
「なんで――」
こぶしを振るわせた少女は、こっちを見、意外なほど綺麗な笑みを向けた。
「こんなワタシと一緒にいてくれたはじめてのヒトだから」
びっくりしていた間に、紫亜は家を飛び出していってしまった。
次の瞬間、窓の外が暗くなる。
日食の予報はない。マンションの頭上に巨大な何かが出現し、その影が降りそそいだとしか思えなかった。
世界を
その生物というのが、どうみたって巨大な目玉としか思えないようなものだった。その目玉からは無数の触手がうごめき、近づいていったところで、雲の顔と人らしき物体はぴゅーっとどこかへ行ってしまった。
最後に残された目玉もなにをするでもなく、消えていった。
その数分の動画は、SNSを通じ全世界へと発信されていく。某ゲームのボスだとか、某漫画の総大将みたいだとか。だが、それも元動画が削除され、ほとんど広まることはなかった。
紫亜は戻ってくるなり、
「疲れたわ……」
「えっと、なんで疲れたんだ」
「知らなくていい。それより、ごはんはまだなの?」
「いやだって、今日は平日だし……」
俺はカップラーメンを指さす。健康によろしくないとは思いつつも、紫亜は料理ができないから即席なもので満足していただくほかない。
そうしたら、眉が吊り上がる。
まずい、機嫌が悪くなるぞ。
「作りたくないってわけ?」
「そ、そういうわけじゃねえよ」
「じゃ、よろしくね」
鼻歌を歌いながら紫亜がこっちへやってくる。
――ワタシの大切な人。
振り返れば、鼻歌まじりに自室へ入っていく紫亜の背中が見えた。いつも通り小さかったけれど、なんだか頼りがいがあった。
「……しょうがねえ」
今日くらいは頼みを聞いてやらんと、天罰が落ちてきそうな気がするからな。
居候は自称邪神の配信者 藤原くう @erevestakiba
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