第6話「しらゆき姫の家庭の事情」

 夜。食堂にて。

 一番後ろのテーブルにヴォルフと二人。そして二つ並んでいる六人掛けのテーブルのもう一つに、オタク三銃士がいつもいる。不思議な事に、鼻眼鏡はカウンターを背にして座るってる事が多い。気のせいか? 鼻眼鏡の対面にいる白デブの体格考えたら、一番後ろの席に着くのが楽なんやろう。

 ヴォルフは俺が悩んでたら色々察してくれるから昔から話易い。

「やっぱり仲直りしたいんですね」

「うーん」

 俺は煮込み掬うスプーンを咥えてしょっぱい顔してた。

「あんなキレ方したからねー。似非姫達の立場が悪くなるのも申し訳ないし」

「似非姫って、アナベル様達の事そう呼ばれますが、何故ですか?」

「あぁ、俺の知ってるお伽噺のお姫様の造形に似てるから」

 頭捻るヴォルフ。

「リンゴ齧って死ぬ女。舞踏会でガラスの靴落とした女。弓矢で熊と戦う女。そんな感じ」

「それ、どんなお姫様なんですか? 熊と戦うお姫様って……」

「あるから……。今度どんな話が教えてやるよ」

 飯食い終えて、二人で宿舎へ戻る。

 男子階へ続く階段を登っているとエリオット殿下に呼び止められた。後ろにはデリックでないお付き学生二人。

 ジェル姉の件で話さないかとなるわけよ……。

 二階と三階には、廊下に二人掛けのソファーが二つあるテーブルセットが二組置いてあるオープンスペースがある。

 テーブルの上には、紐が括り付けられた砂時計が一つ置いてある。砂時計は三十分。使用制限は一時間。片面にⅠもう片面にⅡと入っている。

 Ⅱを上にした時計砂がサラサラ落ちていく。

 俺とヴォルフの対面にエリオット殿下。殿下の後ろにお供学生が警護も兼ねて立っている。

「ジェル、ずっと怒ってるんだよ。『弟が私のお友達にひどい事を言っ泣かせたんです。ぷんぷん』みたいな感じさ」

「すみません。ご迷惑おかけしました。我が姉はアホですね」

「子供の頃から可愛い人だよ」

 王子様は愉しげに笑った。

「で、彼女の友達ってどんな子なの?」

「えっ、それは」

「アナベル・アップルハート。アップルハート侯爵のお嬢様です。お母様を亡くされてから色々大変みたいです」

「お前、あいつの家庭の事情知ってんの?」

「母がお友達の御婦人方とお茶会で色々話してたから」

「数の少ない公爵家とか、チェインバー家みたいな名家はわかるんだけど、数百ある貴族の家の子供って把握しきれてなくてね。で、アナベルって子、何が大変なの?」

「アップルハート侯の再婚相手には成人した二人の娘がいます。連れ子持ち同士の結婚が円満にいきにくい話は枚挙に暇がありません。御多分に漏れず。学院の寮にほりこまれている間に、再婚相手が跡取りの男の子を産んだので、余計に肩身が狭い思いをしていたとか」

「それ、おばちゃんから聞いたん?」

「ええ。母が『可哀想、可哀想』ってしょっちゅう言ってて。僕は入学試験の会場でアナベル様見かけただけだったんですけど。ここに来る前『あのお嬢さん、学園に逃げられて良かったかも』って言ってました」

「おばちゃんネットワーク恐るべし……」

「準成人になる前から、継母から滅茶苦茶な縁談組まれていたそうです……」

「なんかどっかの辺境伯の所に後妻として嫁に出されそうになったみたいです。取り巻きの二人に聞きました。だから、うちの姉上に取り入ろうと……」

「なるほど。『友達は可哀想な境遇の人だから、私が味方になってあげないと』って言ってた理由がなんとなく見えた」

 殿下は少し考えごとでもしてるのか、口許に手を添えて斜めの空を見つめる。

「で、カルヴィン。君はどうしたいの?」

 外していた視線を俺に向ける王子様。

「えっ!? あー、まずアナベル嬢にはきちんと謝罪したいです。で、俺が怒鳴った事で女子学生間の立場が不安定になってるなら払拭したいってところですかね」

「謝罪はともかく、謝罪した事を知らせる方法は?」

「カフェテリアで謝ろうかと。一年と三年には女子のあてがあります。ただ、二年生の女子の知り合いが俺にはいなくて……」

「三年生に知り合い?」

「子供の頃、士官学校に行く年まで俺らの誕生会に来てくれてた騎士家系のお嬢さんがいて。ランカ・ローニャン先輩です」

「二年生の女子は僕が調達しよう。詳しい事決まったら教えて」

「かしこまりました」

「早く姉弟ゲンカ終わらせてもらわないと、僕も困るからさ」

 殿下は笑ってた。

 いやはや、ほんと俺らの姉弟の事で申し訳ない。

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