第4話「勤労奨学生の立場」
土曜日。待ち合わせ場所のである外園南門近くの樹木の所で俺は立ってた。
約束の午後四時から少し過ぎた頃。
庭園の方から、薄いカーキー色の作業服を着た女子二人がこちらにやってくる。
エイミー嬢は箒を、黒髪眼鏡ちゃんは熊手とちりとり付きのズタ袋を持っている。
「よ――っ!」
「すみません! ちょっと遅れてしまって」
「気にしてない!」
二人はこちらに駆け寄ってきた。
「カルヴィン様、少しだけ森の奥でいいですか? 外から人がいるのが判る程度の奥で」
「ええよ」
森と呼んでいる場所は、学園を囲む塀の内側にある樹木がいっぱいある場所だ。
魔法騎士団の駐屯地時代から生えてたのか、それとも人工的に植えたのかわからない。八百年前から生えてる感じではないから、人工的に作られた森みたいな植え込みだろう。
奥に行くと塀がある。場所にもよるが、森の外側からは見えない。だから定期的に職員の人が見回りしてるようだが、人目を憚る時、学生らは森の中に行く事がある。
女二人とは言え、男の俺と一緒にいるのは憚られるのだろう。放課後、外園の円路でランニングをしている学生がいる。そこからギリギリ見える場所に、エイミー嬢は俺を案内した。
「お呼び立てしてすみません。単刀直入に言います。アナベル嬢の事です」
「あぁ、あいつ。君ら、あいつにイジメられてんの?」
「いいえ。この前、食堂でアナベル嬢が話してた事に、リリが関わってるから」
「リリちゃんがイジメられてるん? ひでーな」
「違います!」
黒髪眼鏡ちゃんが叫んだ。
「アナベル嬢が話してたのは、剣術の授業でのジェル様とリリの対戦の時の話です。ジェル様、剣術お強いんです」
まあ、学園に来る前に一通りやってたからな。
「私、剣術初めてで慣れて無いから……」
「ジェル様には誰も勝てないんです、あたしを除いて。おまけに、リリったらジェル様が相手だと緊張で手が震えしまって。あの方、その事を言ってたんだと思います」
「余計、あかんやないか」
「凄く怒って下さったのは、大変嬉しいんですが、別にあたし達気にしてないんですよ。日常だから」
黒髪眼鏡ちゃんはこくこくと頷いた。
「学園内での規則はありますけど、爵位序列ありますから。同じ男爵でも裕福な方と、あたし達みたいな貧乏貴族もいますので。むしろ、カルヴィン様みたいな方の方が珍しいくらいです。言葉で言われてるだけですから。あたし達というか、リリの事で仲違いされてるのでしたら、ジェル様と仲直りしていただけないでしょうか?」
「……」
ジェル姉と喧嘩してるが、原因は似非白雪姫の事だ。あいつと関わるのやめてもらえない限り話にならない。
「勤労奨学生制度を利用してる学生への嫌がらせってちょいちょいあるんです。あたし達への嫌がらせは少ないですけど、カルヴィン様達のお陰で」
「俺、なんもしてないけど」
「あたし達、運好くカフェテリアの仕事させてもらって、色んな方と仲良くしてもらってます。その中に、エリオット殿下のお妃予定者様とその弟君がいるとなると、ね?」
「そういう理由か……」
「すれ違いざま、嫌事言われたり、身体触られたりしょっちゅうです。いちいち抗議してたらキリがありません」
「女性の身体を許可なく触るのはセクハラや。仮に殴ってないと言っても、無許可の接触はある種の攻撃と一緒やぞ。尖った爪で皮膚を直接撫でたら、怪我するやろ。男から男でも尻とか触られたら気持ち悪いやんけ!」
「……。そういうお考えなんですね。あたし達、普通の学生とは違うの判ります?」
「学生で、暇な時にバイトしてる感じ?」
「あたし達は学園の職員って立場でもあります。だから……」
エイミー嬢がニヤっと笑った。
教職員への狼藉は、学長への狼藉に等しい。
そういう事か……。
「もし、あたし達勤労奨学生におかしな事してるなって人とか見かけたら、こっそりティーダ先生に報告してくだされば良いだけです。あっ、婦女暴行とかだったら、直ぐに止めて下さいね。それ、最後までされちゃうとヤバいから」
「了解!」
「あと、この話は内密にお願いします」
姐御気質の勤労学生が、口許に人差し指を立てた。
「あたし達のお話はこれで終わりです。カルヴィン様とお話したい人がもう一組いるんです。よろしいですか?」
「ええよ。俺がここに来る前からおった奴らか?」
「気付いてました?」
「うん。木の裏にいてる。二人かな?」
「ご明答。あなた達、出てきてもいいわよ」
東側の奥。
樹木の後ろから現れた二人の人物が影。
「えっ!? お前ら?」
似非姫二人。
似非シンデレラ。そして、キャロリンだった。
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