第3話「姉弟ゲンカは犬も喰わない」

 翌日。大教室にて。

 真ん中の島。中央よりの席に、ジェル姉と似非白雪姫が並んで座って談笑していた。後ろに残りの似非姫二人。

 入って右手の島の後方の席に向かう。すると真ん中と右手の島の間の通路を通る事になる。

 しまった。後ろから入れば良かったんや……。

 後悔しても遅い。

 姉御と目が合う。

 ふんっとそっぽを向いた。「私は怒ってます!」アピールで不貞腐れている。

 朝からこの調子だ。

 食堂でも、露骨に不機嫌そうに恨めしげに睨みつけて、頬を膨らましてた。

 ガキかよ、アホか!

 隣の似非姫が気不味そうに俯いた。

 俺は素知らぬ顔で、オタク三銃士がいつもの座る二つ前の席に着いた。

 昼。

 やっぱり色々聞かれます、姉弟の事で。

「カルヴィン様、今日どうされました?」

 こういう時に、尋ねてくるのは大体ヴォルフだ。

 俺の友人としてはめっちゃええ奴。

「姉御とちょっとね……」

「昨夜の件ですか……」

「うーん……」

「僕も妹がいるので、兄妹喧嘩はしょっちゅうです。けど、昨日の怒り方はカルヴィン様らしくないです。アナベル様かアップルハート家に何かしら確執がおありですか?」

 俺は黙って俯いた。

 似非白雪姫。アナベル・アップルハート。

 卒業式後にあるプロム前の断罪式で、あの女はジェルトリュード・クラインを裏切る。

「王子様から婚約破棄された田舎貴族の令嬢に、価値なんてありませんから」

 薄笑いしてこっそりGに告げる。

「いつ見てもひっでーな、この女」

「実働部隊のくせにね。ところでさ、これ、言わないバージョンもあるらしいよ」

「それは知らなんだ」

「お姉ちゃんでも知らない? あっ、怒って性悪出て行った」

「この後、ゲーム外て言うか、ストーリー上……」

 リビングでの姉1と姉2のやり取り。姉2のゲーム機を姉1が覗き込んでいた。

 たまにテレビの画面でやってた時もある。三回くらい同じシーン見たな。

 言われへんよ。悪役令嬢と一緒に嫌がらせしてたって。

「個人の感想と言われてしまえばそれまでです。事実無根の悪評を流されたわけではないですし、そこまで怒らなくても……」

「お前、ほんまええ奴やな。でも、俺はジェル姉に言ってるんだ。『他人の悪口は一時的にはスッキリするけれど、自分の心を無自覚に傷つける。だから、多少の批判はしても絶対誹謗中傷はするな』って。あと『自慢話は情報源になるが、人の悪口と批判ばっかしてる奴は、ろくでもないから極力係わるな!』ってな」

「凄く正しいですね」

 ヴォルフは苦笑する。

「お食事中すみません」

 話かけてきたのは、エイミー嬢。後ろに黒髪眼鏡ちゃんもいる。

「カルヴィン様、明日の午後お時間ありますか?」

「土曜の午後は、特になんもないよ。デートのお誘いなら受けて立ちますが?」

 からかうみたいに笑う俺。

「うーん。奢って下さるならWデートでも両手に花でも構いませんが、生憎あたし達お仕事なので、その合間に……」

 エイミー嬢はあしらいが上手い。後ろの黒髪眼鏡ちゃんは苦笑してた。

 勤労奨学生の二人は、授業が無い時は何かしら仕事をしている。

 平日の放課後はカフェテリアのスタッフ。それ以外は、俺はよく知らない。時々、作業服着て外園や内園のお掃除をしているのを見かけるが。

「なら、四時頃、外園南門近くの森で。不安でしたら、ヴォルフ様同伴でも構いませんが」

 ヴォルフの顔色伺う。構わないですよ、と読めたが、「いや、一人で行くよ」

「かしこまりました。お待ちしてます」

 一礼して、二人は去って行った。

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