第1話〜 初恋方程式
4月6日
第e^(iπ)+2話
高校2年生の春。僕は2年5組に入った。
僕が通っている高校、明成南高校では2年生になると文系と理系に分れる。そんな中、僕は文理混合クラスになった。
1学年320人のこの学校は少しだけ理系が多く、1クラス40人で、計8クラスある。その前半5.5クラス分が理系で、残りが文系だ。
どういう基準でクラスが決められているのかは分からないが、とりあえず、僕にとっての緊急事態ということには変わりない。
なんてったって、僕、
そんな僕の左隣に我らが明成南高等学校の太陽、
彼女は書道部のエースで、しかも学年の中でも上から5番目と頭もよく、それに学校一の美少女と呼ばれている存在なんだ。
そんな太陽みたいな彼女と、影みたいな僕が果たして、隣りにいていいのだろうか。
◇◆◇
4月6日、水曜日。明成南高校の新学期の登校日だ。朝、いつも通り僕の親友と呼べる唯一の人物、
電車に乗って、最寄り駅から歩いて約10分のところにある結構立地の良い学校に行く。途中には新しい制服を着た新入生らしき人たちがたくさんいた。みんな目を輝かせている。
「あ〜あ、俺等にもあんな時期あったのかなぁ」
「ちょうど1年前こんな感じだったはずだぞ」
「え? もう1年経つのか〜俺は部活しかしてこなかったからなぁ。青春だなんだかんだ。そんなものは本当に存在するのかねぇ」
「いや、亮一、去年の今頃、『うおぉぉぉ! 高校だ! 青春だ! 部活だ! 恋愛だ! 』って言ってたぞ」
「そうは言ってもなぁ・・・・・・ 幻滅しちゃったよ」
我ながら新学期だと言うのに辛気臭い話をしているものだ。
「だ・け・ど・よ。お前の席の隣は誰なんだ? このやろ〜」
「誰って・・・・・・ 」
「もう、お前も春休み中学校に来てたから知ってんだろ? 火夏星さんだよ! 火夏星彩夏! 」
「だから何さ」
「だからって・・・・・・ おまっ、あの火夏星彩夏だぞ! 我らが明成南高校のマドンナ! 女神! そんな神様と隣の席になるなんてあのプレアデスさんもいいご身分になりましたなぁ」
「おい、その昔のあだ名やめろ。」
プレアデスというのは中学の時亮一がつけた僕のあだ名だ。中学のとき、プレアデス星団・・・・・・ つまり、昴が理科の教科書に載っていた。で、僕の名前が昴なのでプレアデス星団、よってプレアデスとなった。
絶対プレアデスのほうが呼びにくいのに、
「かっけ〜じゃん! プレアデスって! 」
と言いながら、たまに思い出したようにからかい口調でこのあだ名で呼んでくる。
「あの美しく少し明るい髪。華奢な容姿。本当に羨ましいぜ。それにな、お前と火夏星さんには共通点があんだよ! 」
「なにさ、」
「お前の名字は夏日星、つまり火星だ。火夏星っていうのも火星の別名なんだぜ! もう、偶然じゃないだろ。運命だろ! 」
「もう、勝手に言っとけ」
「お前は火星・昴! マーズ・プレアデスだ! 」
僕は他人のことばかりあれこれ騒ぎ立てる亮一を置いて、速歩きで学校へと向かった。
◇◆◇
学校へ着くと玄関の前には生徒会が作ったであろう、『入学おめでとう! 』の文字が大きく掲げられていた。生徒会にしては字が上手すぎると思って(結構失礼)少し目を凝らしてみると、右下の方に『彩夏』と、判子が押されていた。
絶対に火夏星さんのだと思った。靴箱で上靴に履き替えて4階へと向かう。そして2年5組の教室へ入り、右から3番目の一番うしろの席に座る。この席の左隣が火夏星さんの席だ。
おい、ペアワークとかでも一緒じゃないか・・・・・・ まあ、先のことは考えないでおこう。教室にはちらほら人がいて、まだ顔見知りは来ていなかった。
少し経つと、しまっていたドアをガシャン! と強引に開ける音がして亮一が入ってきた。
「昴、置いていくなんてひどいだろ! 」
「一人でごちゃごちゃ勝手に話してただけだろ! 」
「まあいい、新学期に免じて許してやる」
いや、何に免じてるんだよ。なんにも関係ないだろ。
亮一とは小学校から一緒なので結構付き合い方がわかっている・・・・・・ はずだ。こういうときは変に突っ込まないで無視しておいたほうがいい。
しばらくの間、机の上に配られていたプリント類の整理をしたり、学割のクーポンと化した新しい生徒手帳をパラパラ読んでいた。
すると、今度は静かにガララッとドアが開き、火夏星さんが入ってきた。肩くらいまである茶色っぽい髪に、淡麗な容姿、その優しい雰囲気にすぐに彼女だと気づいた。
僕の隣の席に座る前に、
「おはよう! はじめまして、私は火夏星彩夏です。これからよろしくね! 」
と元気な挨拶をした。もう、これは太陽以外の何物でもないだろう。いや、100,000ルクス超えて1,000,000ルクスくらいの輝きを放っている。
「おはよう、 僕は夏日星昴。よろしく」
「夏日星くんね! あっ君も『火星』くんだ! 私と一緒! 」
「ん? なんて? 」
「あっ、いや、夏日星って火星でしょ、私の名字の火夏星も火星って意味なんだ〜 あっ急にごめんね! 」
僕が亮一に言われるまで気づかなかったことをこの人は一瞬で・・・・・・ しかもこのタイミングで・・・・・・ 色々とすごいな。
そのまま流れで一番前の席にいる亮一を見ると、こちらを見ながらクスクス笑っていた。指を指しながら・・・・・・ 本当に悪いやつだ。
「火星くんだって(笑)」
と言っているのがわかる。
◇◆◇
これが僕と彼女のへんてこな学校生活の幕開けだった。
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