第28話




「レオ? もういいよ」

 ドアを閉めて少し経ってから僕はレオを呼んだ。父親の話は本当のことだろう。だとするとレオがその古代吸血鬼の王だか父だかということになる。そんな驚くべき話を聴かされたのに、僕はなぜか落ち着いていた。まだレオの口から何も聴いていない。レオからちゃんと話を聴くまではレオは僕の愛しい家族だ。

 そう思っていたのに、部屋に戻ってきたレオの表情を見た僕はため息をついていた。

「セリオスの話は、本当なんだね」

 申し訳なさそうな、泣きそうな顔をしたレオが静かにうなずいた。

 僕は倒れるようにソファーに座った。レオと過ごしてきた日々が走馬灯のように僕の頭の中を駆け巡っていた。

 僕は古代吸血鬼と一緒に暮らしてきたのか。いや、僕が育ててしまったんだ。どうして今まで気づかなかったのだろう。いや、その可能性もあることはわかっていた。でも僕は考えようとしなかった。レオがあまりにもかわいくて愛しくて、そして一緒にいるのが楽しくて。

 レオはどういう気持ちで暮らしていたのだろうか。きっと最初から僕がセリオスの息子であることは知っていたはずだ。愛する家族を殺した憎い男、セリオスの息子。セリオスが言っていたように僕らに復讐するつもりなのだろうか。レオは僕を殺すつもりなのだろうか。今ごろになって僕の頭は混乱していた。しばらく震えが止まらなかった。怒りとショックと悲しみで僕の体は震えていた。

「アンドリュー。ごめんなさい。別に隠していたつもりじゃ……」

「わかってる!」

 思ったより大きな声が出たことに自分でも驚いた。

「わかってるよレオ。レオは何も悪くない」

 そうだ。レオは何も悪くない。レオはまだ産まれたばかりだった。何もしていない。それなのに家族を殺されたんだ。レオは、何も悪くない。

「でも、ごめん。ちょっと疲れたから横になるよ。明日また話そう」

「うん。わかった」

 まだキッチンに立ったままのレオの横を通り過ぎ、僕はベッドに横になった。

 今はまだ何も考えられなかった。

 レオにかける言葉も見つからなかった。

 なんだか疲れたな。

 僕は目を閉じた。

 そういえば、レオが触ってしまったら危ないからとあの銀の棒は全部パントリーの奥にしまったのだった。セリオスは銀の棒がないことによく気がついたよな。

 でも本当に今ごろになってそんな大事なことを教えにくるなんて。

 僕に吸血鬼の殺しかたを教えてあるから大丈夫だろうって?

 僕が吸血鬼を殺す、か。

 僕が、レオを、殺す?

 いや、そんなことできるわけがない。

 レオだろうが吸血鬼だろうが僕は誰も傷つけたくないし殺したりしない。

「おやすみ、アンドリュー。愛してるよ」

 隣にレオの気配を感じた。

 レオが僕の頭を撫でている。

 とても気持ちがいい。眠ってしまいそうだ。

 これから僕はどうすればいいのだろう。

 今までどおりに暮らしていけるのだろうか。

 ああ、何も知らないままでずっとこうやってレオと幸せに暮らしていたかった。

 レオと離れたくない。

 この手のぬくもりを手離したくない。

「愛しいレオ。レオになら……僕は殺されても……いいよ」

 僕はそのまま眠りに落ちていた。

 そして朝目を覚ますと、レオの姿はどこにもなかった。






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ハートオブ・ヴァンパイア クロノヒョウ @kurono-hyo

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