第27話
「ほう」
セリオスはドアの前に立ったまま僕の部屋の中を眺めていた。
「とりあえず座ったらどうですか」
僕はソファーに座ったまま振り返って言った。
「いや、遠慮しておくよ。お前のたわごとや夢物語を聴きに来たわけじゃない」
「なっ」
「お前に忠告しておこうと思ってな」
つくづく嫌な性格の男だと思った。彼は本当に僕の父親なのだろうか。こんな男と血が繋がっているのかと思うと怒りがこみ上げてくる。
「俺たちは今、ある古代吸血鬼を探している」
「古代吸血鬼?」
「一年くらい前の話だ。俺たちハンターはこの街で狩りをした。その時に殺した古代吸血鬼の
一年前というと、確かにあの時ハンターによる狩りが行われた。そして僕はここに来たケガをおった古代吸血鬼を治療した。そういえば、また来てくれると約束したのにあの青年はあれから一度も来なかった。すっかり忘れていた。そう、その後すぐにレオが現れたから。
「それで?」
「俺たちが殺したその古代吸血鬼の番は生粋の吸血鬼の末裔だ。純血種の、いわゆる吸血鬼の王だ。とにかくおおもとのそいつらを殺せば今いる古代吸血鬼はだんだんと力を失いゆくゆくは滅びるはずだった。だがそうはならなかった。おそらく赤ん坊が、まだ生きているからだ」
「ちょっと待って。本当に、その番には赤ん坊がいたのか? 証拠は?」
「証拠だと? 奴らの家に行ったのは俺たちだ。逃げ出した二人を追いかけ殺ったあと家を覗いた。赤ん坊のベッドがあった。だが中は空っぽだ。すぐに辺りを探したが見つからなかった。仲間がいて連れ去ったか赤ん坊が逃げたかだ。証拠はこの俺だ」
僕は混乱した頭を落ち着かせるのに必死だった。まさかその赤ん坊がレオだというのだろうか。
「忠告だ。その赤ん坊は俺たちハンターを恨んでいるはずだ。特に俺のことをな。親を殺されたんだ。復讐をたくらんでいるかもしれない。だからお前も気をつけろ。それだけ言いにきた」
「は? 一年も経って、今さら気をつけろだと?」
「ハッハッハ、今さらで悪かったな。だがハンターの息子なら吸血鬼の殺しかたくらい知っているだろう。ああ、俺が教えたからな。それともあれだ。そうだ、お前は人間が吸血鬼に襲われようが殺されようが吸血鬼の味方だったな。いい加減現実を見ろ。いつまでもそんな甘ったるい考えじゃすぐに殺られちまうぞ」
「くっ」
「せいぜい気をつけるんだな。それだけだ。じゃあな」
それだけ言うとセリオスはドアを開けて出ていこうとしていた。僕はすぐにセリオスの後を追った。セリオスが一歩外に出たところで僕も外に出てそっとドアを閉めた。
「ちょっと待って」
僕は声をひそめた。いくらなんでもあの特別診察部屋からここまで離れれば僕の声はレオには届かないだろう。
「ん? 何だ」
僕はセリオスに向かって人差し指を立てた。
「吸血鬼同士はテレパシーを使って会話ができるそうだ。そして日々進化してる。もう歯は伸びない」
僕が耳もとで早口でそう言うとセリオスは何かを考えるような顔をしながら自分の髭を触っていた。僕はまたそっとドアを開けた。そして今度は普通に話した。
「それじゃあ。もうここには来ないでいいですから」
わざとらしくなかっただろうか。レオに怪しまれなかっただろうか。
「そうだ。銀の棒が見当たらなかったがどうした。ちゃんと置いておけ」
セリオスはまた気味の悪い笑顔を見せるとそう言いながら階段を降りていった。
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