第26話
夕食を終えてレオとソファーに座ってテレビを見ていた。ちょうど始まったニュースでは人工血液が売っているお店に並んでいる人たちの映像が映し出されていた。顔は映っていないから恐らく吸血鬼が並んでいるのだろう。
「人工血液か。レオもこれを飲むの?」
僕特製のサプリも残り少なくなっていた。もう今ではサプリを飲んでいるのはレオだけで誰ももらいにこないのだけれど。
「俺は人工血液は飲みたくない」
「どうして?」
「本当に血の味がするらしい。一度人工血液を飲んだ吸血鬼はまた血の味が欲しくなる。だからこんなに並んでまで買いに行くらしい」
「そんな。それって危険じゃないか。一種の薬物中毒みたいなものだろう?」
「ああ。だから俺は飲みたくない」
僕はまたこの人工血液に胸騒ぎを感じていた。いったいどこの誰が開発したのだろうか。人工血液の成分は何なのだろうか。どうにか手に入れて調べる必要がありそうだ。
「レオ、その人工血液を調べ……」
「シーッ!」
突然レオが立ち上がって人差し指を口に当てた。
「誰か来る」
レオが小声でそう言った。僕も耳をすませてみたけれど何も聴こえない。
「すごく大きな男の足音。杖みたいな物をついている。今階段の下で止まった」
僕のこの自室を訪ねて来るような人は誰もいない。そもそも僕には友だちもいないしエリサとラナの他に僕がここに住んでいるのを知っているのは誰もいない。そう、父親以外は。
「セリオスだ! レオ、隠れて!」
「隠れるって、どこに」
「ああ、ええっと、隣だ! 隣の診察部屋!」
「わかった」
「鍵をかけて!」
レオがキッチンの奥の特別診察部屋へのドアを開けて出ていくのを見届けた僕は急いでソファーに座りなおした。と同時にドアがノックされた。
「はぁい」
僕が返事をするかしないかのうちにドアは開いた。
「よお、親不孝な息子よ」
セリオスは僕を見て低く太い声でそう言うと気味の悪い笑顔をしてみせた。
「どうしたのですか」
僕はすぐに目をそらした。相変わらずの巨体で髭は伸び放題。後ろで束ねられた長い髪の毛。チェックのシャツにオーバーオール。そして手には大きな銀の斧を持っている。その姿はまるで今から熊と戦う山男のようだった。
「なぁに。近くまで来たからな。ちょっと裏切り者の顔でも見ていこうと思っただけだ」
この口調からして恐らくセリオスは僕が吸血鬼のことも治療しているということをどこかで聴いたのだろう。そしてそれを確かめに来た。という感じか。
「ちょうどよかった。僕もあなたに話したいことがあります」
こうなることもあろうかと思ってはいた。胸を張って吸血鬼を助けると誓った日から、もう覚悟はできていた。
僕はセリオスにも全てを打ち明けるつもりだ。
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