第25話
「あらあら、本当に仲良しねぇあなたたち」
ある日のクリニックだ。お昼を食べた後、あまりの天気の良さとあたたかさで眠くなった僕は診察室の奥の処置用のベッドに横になった。すぐに眠ったのはいいものの、レオが僕の横に潜り込んでくる気配を感じた。狭いベッドで窮屈だったけれど、睡魔に勝てなかった僕はそのまま寝てしまっていた。お昼休みが終わるのを知らせに来てくれたエリサがその光景を見てそう言ったのだ。
「本当に坊っちゃんは先生のことが大好きなのね。ふふふ」
エリサはそう言って僕らを見て笑っていた。
「ん? レオ? ほら、起きて」
「ん……」
僕はゆっくりと体を起こした。そして隣で寝ているレオに声をかけた。
「はいはい、もう診察の時間ですよ坊っちゃん」
エリサに起こされレオはようやく起きた。と思うとすぐに僕のほうへと倒れ込んできた。僕はレオにひざまくらをしている状態になったのだ。
「ふふふ。本当にいつまで経っても子どもですね、坊っちゃん。先生、ちゃんと起こして準備してくださいね」
「あ、ああ」
エリサはそう言って出ていってしまった。
「いつまで経っても子どもか」
僕は自分のひざの上で寝ているレオを見つめた。確かに僕はレオのことを自分の子どものように思っている。目に入れても痛くないしきっとすごく甘やかしている。何でもやってあげたいし何でも教えてあげたい。でも見た目は僕と歳も変わらない。こうやってずっと僕の後ろをついてまわってくるし甘えん坊ではあるけれど、きっと中身は僕よりもずっとずっと大人だ。だからたまにレオにどう接していいかわからなくなる時があった。このまま子どものように甘やかしてかわいがっていいのか、ひとりの大人として対等に接したほうがいいのか。
「レオ、起きて。クランケが来る」
「ん……はぁい」
レオは起き上がると何事もなかったかのように伸びをしながら診察室から出ていった。
クリニックにいる時、患者がいなくなると決まってレオは僕のすぐ隣に座って僕を見つめ始める。そしてその様子をいつもエリサに見られては『仲がいいわね』『あら、お邪魔かしら』なんてことを言われていた。最初はそれが恥ずかしくて照れくさかったのだけど、僕も大概でいつの間にかレオに見つめられることが当たり前になってきていた。隣にレオがいないとレオの姿を無意識で探してしまうのだ。
「レオ?」
患者がいなくなったのに診察室に入ってこないレオのことが心配になって僕は診察室を出た。受け付けを覗いたけれどそこにはラナが座っているだけだった。休憩室に足を運ぶとエリサが座ってコーヒーを飲んでいた。エリサに気づかれないように休憩室の前を通りすぎて今度は準備室を覗く。医療器具が置いてある部屋だ。ここで医療器具を滅菌消毒したりしている。
「レオ?」
レオの姿がないのを確認してから奥の倉庫に入った。狭い倉庫には薬の棚が並んでいるだけだった。そして最後にオペ室に向かった。
「レオ」
レオはオペ室のベッドに横になっていた。やっとレオの姿を見つけた僕は心からほっとしていた。近づいてみるとレオは気持ちよさそうに眠っていた。
僕はレオのサラサラの髪の毛に触れていた。こうやってレオの髪の毛に触れると落ち着くのは今でも変わらなかった。
レオはずっと僕のそばにいると言っていた。僕もずっとレオのそばにいたいと思っている。でもなぜか僕は、レオが突然いなくなってしまうのではないだろうかと不安になる時があるのだ。
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