第24話
ずっとずっと昔の物語の中の吸血鬼は、人間の首すじに噛みついて生き血を吸っていた。噛まれた人間は同じように吸血鬼となって人間を襲うようになる。
今この世にいる古代吸血鬼。彼らが生き血を好むのは同じだけど、もしも彼らが人間を襲って噛みついたとしても人間は吸血鬼にはならない。噛みつかれて血を吸われた人間は死んでしまうのだ。
前に古代吸血鬼は新世代吸血鬼にも襲いかかると言ったけれど、古代吸血鬼に噛まれると新世代吸血鬼も死んでしまう。だからハンターがいて古代吸血鬼を狩るのが合法となっているのだ。古代吸血鬼を根絶やしにしたい。それが国の考えなのだろうけれど、やっぱり僕は古代吸血鬼の中にも優しくて誰も襲わない吸血鬼がいるから、ハンターのように古代吸血鬼というだけで捕まえて殺してしまうのはどうかと思っている。
「あれ? 最近吸血鬼が少ないな」
クリニックでカルテの整理をしていて気がついた。この二週間で歯を削りに来た吸血鬼はたった一人しかいない。
「そう言われてみればそうですね」
ラナは受け付けのノートを見つめていた。
「吸血鬼の予約がほとんど入ってません」
「そんな、何かあったのかな」
「さあ」
ラナは首をかしげるだけだった。
クリニックへの落書きもなくなり、諦めたのか世間の目も普通に戻ってきていた。匿名の手紙はたまに届くけれどやっと穏やかになってきたところだったというのに。
「人工血液の認可がおりたんだよ」
「え?」
耳がいいから休憩室にいたレオには聴こえていたのだろう。受け付けに来てレオがそう言った。
「来月から販売されるって。だからアンドリューのサプリはもう必要なくなる」
「そうか。それはいいとして、歯は? 子どもは歯を削らないと今ごろ伸びてきて危ないよ」
「なあアンドリュー。俺の歯を削ったのはいつだ?」
「えっ、えっと、あれ? レオの歯を削ったのは、最初の一回だけ?」
そうだ。気づかなかった。レオがここに来た時に眠っている間に歯を削った。それ以来レオの歯は削っていない。
「吸血鬼は進化する。最近じゃ一回歯を削ればもう伸びなくなってる」
「そんな、本当に!?」
僕はレオに近づいてレオの唇を無理矢理上に上げた。
「本当だ。気づかなかったよレオ。人間と一緒だ。でも進化するって、どういうこと?」
レオの唇から手を離した。どうして今まで気づかなかったのだろう。あまりにもそばにいたからなのか。そういえば僕はレオが吸血鬼だってことも時々忘れていることがある。
「さあ、俺たちにもどうしてかはわかんねえけど。こうやって常に進化し続けてきた」
「そうか。すごいね! すごいよ!」
僕は興奮していた。吸血鬼の進化をこの目で見ることができたんだ。本当に、まだまだ吸血鬼というものはわからないことだらけだ。
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