第22話




 レオと一緒にいると月日が経つのがものすごく早く感じる。レオの成長が早いからだ。まるで自分も同じように年を取っているのではと勘違いしてしまうが、レオがここに来てからまだ一年も経っていないのだ。

 レオはあっという間に青年期に入った。

 背は僕よりも十センチは高い。浅黒かった肌も今は自然な肌色をしている。細いのにしなやかな筋肉質の体は僕が見てもうらやましいくらいに美しかった。真っ黒でウェーブがかかっていた髪の毛もその面影はなく、明るいブラウンのサラサラヘアーへと変わった。そして幼少期から変わらないブルーの吸い込まれるような綺麗な瞳。感情豊かな大きな瞳は常にレオが好んで着ている黒い服ととてもよく似合っていた。

 吸血鬼はなぜか男しかいないと言ったがもう一つ、なぜかみんな美しいのだ。人間離れしていると言えばわかりやすいだろうか。僕の考えだけど、きっと青年期がとてつもなく長いからだろうと思う。何百年とその姿で生きるためには美しくなければという生存本能が働いているのではないのだろうかと思っている。

「ねえレオ。これからどうしたい?」

 青年期に入ってからというものレオはなぜか僕にべったりになった。朝目覚めると僕はレオに腕まくらされているし、料理を作る時もすぐ横にいてくっついて見ている。食事の時もレオは僕を見つめているし仕事中もずっと僕の後ろに立っているのだ。

「青年期に入ったんだ。吸血鬼専門のカレッジに行って勉強するのもいい」

 結局レオは小学校には通わなかった。世の中を見たいなら学校に行くのがいいと勧めたのだけど、レオはかたくなに首を横に振った。

「カレッジには行かないよ。アンドリューのそばにいる」

 そう言って僕を見つめる目はまるで愛しい恋人を見つめるようだった。

「レオ? 何と言ったらいいのか、その、ここにいるだけじゃ視野も広がらないし、そうだ、友だちもいないだろう? 僕やエリサやラナだけじゃなくてもっといろんな人と接してさ、友だちを作って遊んだり、ほら、いろいろ……」

「俺はここにいる」

「レオ」

 レオの真っ直ぐな目。こうなると何を言っても無駄なのはわかっている。レオは頑固なのだ。それでもレオにはもっと世の中を見てほしいと思っているし、僕とだけずっと一緒にいるのもなんだかよくない気がする。

「ねえレオ。何もここを出ていけって言ってるわけじゃないんだよ。ずっと一緒にいてくれるのは嬉しいけど、レオにももっと楽しんでほしいんだ」

「俺は楽しいけど」

「そうだけど」

「わかったよアンドリュー。じゃあはっきり言うよ。俺はこれから何百年も生き続ける。でもアンドリューは違うだろ。今二十三歳だからあと六十年程しか生きられない。俺にとっては六十年なんてほんの少しの時間なんだ。俺はアンドリューが生きている限りそばにいる。カレッジなんてアンドリューがいなくなってからいくらでも行ける」

「そう、か。そう、だよね」

 レオが僕にべったりな意味がなんとなくわかった気がした。レオは僕と過ごす短い時間を大切にしてくれているのかもしれない。あんなに小さかったレオの成長を見てきた僕にとってもレオは家族みたいに大切なものだ。いや、本当に僕はレオを自分の子のように思っている。それくらいの愛情は抱いている。だからなのか、僕が死んだ後のレオの成長を見れないと思うと哀しくなった。僕だって、ずっとレオを見守っていたいよ。





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