第20話




「いいかい。エリサとラナにちゃんと挨拶するんだよ。仕事の邪魔をしないように。それから……」

「わかってるってばぁ」

 レオの手を引きながら自室を出て階段を下りた。いよいよレオと僕のことを打ち明けるためにと朝早くエリサとラナに来てもらったのだ。

「おはようございます、先生」

「おはようございます」

 休憩室に足を運ぶとエリサとラナが立ち上がり笑顔で迎えてくれた。

「おはよう。二人とも朝早くに申し訳ないね」

 僕はそう言ってから、僕の後ろに隠れていたレオを自分の目の前に立たせた。

「まあ!」

「あら」

「エリサとラナに話しておきたいことがあるんだ」

 僕を見上げたレオに僕は目配せをした。

「はじめましてマダム、マドモアゼル。アンドリューにお世話になっているレオです」

 レオはとてもかわいらしくお辞儀をした。上出来だ。

「はじめましてレオ。私はエリサよ」

「私はラナ。よろしくねレオ」

 二人はとても嬉しそうな優しい笑顔をしていた。

「素敵ねアンドリュー。最近やけに楽しそうにしているわねって話してたのよ」

「こういうことだったのね」

「いやぁ、ハハ」

 なんだかすごく照れくさい。そうか、僕は楽しそうに見えていたのか。

「それで? レオとの経緯を聞いてもいいのかしら?」

「ええ、もちろん」

 僕たち四人は休憩室のテーブルを囲んで座った。

 僕はエリサとラナに全てを包み隠さず話した。二人はとても穏やかに僕の話を聴いてくれた。少し緊張していた僕も話し終える頃にはとても晴れやかな気分になっていた。

「まず、話してくれてありがとうアンドリュー。私たちはとても嬉しいわ」

 そう言うとエリサとラナが顔を見合わせていた。

「だから私たちも正直に言うわね。実はアンドリューが吸血鬼を助けていることは最初から知っていたの」

 僕はエリサが何を言っているのか一瞬理解できなかった。

「知っていたというか、そうだろうなって」

 ラナもそう言ってうなずいていた。

「えっと、どう、して」

「アンドリューがここに来てすぐだったわ。街でフィンのお母様に突然お礼を言われたのよ。いつも主人と息子がお世話になってますってね」

 ああ、フィンの母親か。確かにあの父親の吸血鬼とはもう長い付き合いだ。

「私たちが驚いた顔をしていたら、彼女もしまった、っていう顔をしていたわ」

「だから先生が何かやっているんだってわかりました」

「でも私たちはそっとしておこうって決めたの。アンドリューが隠すには理由があるはずだってわかっていたから」

「本当に、申し訳なかった」

 僕は二人に頭を下げた。

「でも嬉しいわアンドリュー。私たちはずっとあなたに言いたかったの。一人で全部かかえこもうとしないで、もっと私たちを頼ってほしいってね」

「もっと私たちを信じてほしいです」

「二人とも……」

 僕は涙が出そうになるのをこらえるのに必死だった。なんてあたたかい人たちなんだ。それになんて僕は愚かだったのか。

「ありがとう。エリサ、ラナ」

 そう口にするとこらえていた涙が一気に溢れてしまった。

 僕は必死で笑顔を作った。

 エリサとラナのとても広くて大きな愛を感じた。

 ああ、僕はなんて未熟な人間なのだろうか。

「本当に、ありがとう」

 エリサとラナ、それにレオにも、僕は心から感謝していた。





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