第19話
僕がそうやっていろいろと悩んでいる間にもレオは日に日に成長していた。見た目もそうなのだけど中身は凄まじい早さだった。一日中テレビや本からたくさんの知識を得ているのだから無理もない。それに伴ってレオの僕に対する接し方も変わってきていた。
初日に決めたルール通り、食事の時はお互いに今日あったことを話したりしていたのだけど、最初はほとんど僕が一人で話していた。それをレオがただ黙って聞いているだけだった。それがだんだんとレオも話してくれるようになっていったのだ。
『吸血鬼の本は飽きた。もっと他の本も読みたい』
『俺も料理してみたいんだけど』
『なあ、お前は恋人はいないのか?』
時にはこんな質問まで飛び出してきた。僕に興味をもってくれるのは嬉しいことだ。でもいきなり恋人のことを聞いてきて家族のことを聞いてこないということは、きっとあの吸血鬼同士のテレパシーとやらで僕の父親のことはもうとっくの昔に知っているのだろう。そう思うとなんだか複雑な思いだった。レオが何をどこまで知っていて何を考えているのかわからなかった。
「お前の仕事を見学したい」
「えっ? 僕の?」
レオが現れて三ヶ月が経とうとしていた。夕食を終えると突然レオがそう言った。ここにある本は全て読み終え、あらゆるジャンルの本を買ってきてはレオに読ませた。おかげで僕の部屋の本棚がさらに二つも増えてしまった。
「もう本は飽きた。そろそろ世の中も見たい。だからまずはお前の仕事が見たい」
レオが言っていることはもっともだ。レオの見た目は今はちょうど小学生くらいだ。本来なら学校に通って勉強している時期だろう。どうしたものか。レオも学校に行かせたほうがいいのだろうか。クリニックに連れていったとしてレオのことを何と紹介しよう。エリサとラナにどう説明しよう。僕の養子? いや、親戚の子を預かっているということにしようか。いやいや吸血鬼だぞ。何と言い訳しても僕のヴァンパイアホスピタリティーの仕事がバレてしまう。
「なあ、お前はどうしてそんなにこそこそ闇医者をやっているんだ? 吸血鬼の診療をするのがそんなに悪いことなのか?」
「え? いや」
レオに言われて僕の胸がチクリと痛くなった。
「人間はそんなに吸血鬼のことが嫌いか? そんなに吸血鬼を治療するのが嫌なのか?」
「違う! そんなことはない!」
「じゃあどうして隠すんだ?」
「それはっ」
突然レオに問い詰められた僕は何も言えなくなっていた。隠れてやっていたのは父親に見つからないためだ。でもよく考えてみるとそれは僕のただの言い訳だったのかもしれない。吸血鬼専門医をやっていると知られたら吸血鬼のことをあまりよく思っていない人間たちに冷ややかな目で見られるかもしれない。そういう思いが僕の中にまったくなかったと言えば嘘になる。
「そう、か。そうだよね」
僕は愕然としていた。ショックだった。人間も吸血鬼も同じ命だからみんなを平等に助けたい。そんなことを言っておきながら僕自身が平等に接していなかったのではないか。心のどこかでやっぱり僕は人間だからと吸血鬼を自分よりも下に見ていたのではないだろうか。
「もっと胸を張って吸血鬼を助けてほしい」
真剣な目で僕のことを見つめるレオ。
僕は自分のことが恥ずかしくてたまらなくなっていた。自分に幻滅して自分に怒りを感じていた。怒りで顔と手が震えた。
「レオ。わかったよ。ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。
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