第18話




 レオと一緒に暮らすことで僕の生活もがらりと変わるかと思っていたのだけどそうはならなかった。

 レオは生粋の吸血鬼タイプらしく、日中に寝て夜はずっと起きているというスタイルだった。

 まず僕が朝目を覚ますとレオはまだソファーに座って静かにテレビを観ているか本を読んでいる。朝食を作って一緒に食べて、僕はシャワーを浴びて仕事の準備をする。そして僕がクリニックへと行った後にレオはそのままソファーで寝るらしい。お昼休みに一旦部屋に戻って僕はソファーで寝ているレオを抱いてベッドへ移す。そしてあのピンクの水筒にフルーツジュースを入れて置いておくのだ。クリニックが終わって帰ってくるとレオは起きていて、水筒を抱えながらまたソファーでテレビを観ているか本を読んでいる。そして夕食の準備をして一緒に食べる。これがルーティーンとなっていた。

 だから僕の生活にレオがいるというだけで特に何の変わりもなかった。変わったことといえば、夜のホスピタルのほうだ。レオがくる前はいつ誰がくるかわからないからと一晩中特別診療部屋で過ごさなければならなかった。でも今では自室でゆっくりしていられる。誰かが来たらレオが教えてくれるからだ。それだけでも僕はずいぶんと楽になった。

『意志疎通ができるってどういうこと?』

 あれからレオに詳しい話を聞いた。吸血鬼同士であれば集中すれば思いや声を送れるし聴くこともできるらしい。いわゆるテレパシーというものだ。もちろん普段はみんなその意識の扉は閉じているから何も聴かずにすむそうだ。そして吸血鬼は耳がとてもよく聴こえるそうだ。あの時レオはドアが開く音と足音を聴いた。だから集中してみて患者が来たことがわかったと言っていた。

 とにかくハンターの息子であり医者である僕が知らなかったということがショックだった。ハンターの隊長である僕の父セリオスも吸血鬼同士で意志疎通ができるなんて知らないであろう。きっと吸血鬼たちは人間にこのことを気づかれないように隠していたのだと思う。なぜなのか。古代吸血鬼だったらまだ理解できる。狩りが始まったらハンターから逃れるために仲間にハンターの居場所を知らせることができる。でも新世代吸血鬼はどうしてだろう。わざわざ言わないまでもこんなにも隠す必要があるのだろうか。

 僕は何か胸騒ぎを感じていた。今まで普通に接してきた吸血鬼たち。人と吸血鬼との共存も順調に長く続いてきていい世の中になったと思ったばかりだったのに、彼らがいったい何を考えているのかわからなくなっていた。このまま彼らのことを信用してもいいのだろうか。それともこれからは彼らを警戒しながら生きていかなければならないのだろうか。そしてもう一つ、父親にこのことを知らせるべきなのか。知らせるべきだとは思うけれど、そうなると僕の仕事のことやレオのこともバレてしまう。いったいどうしたらいいものか。僕はしばらくそんな悩みをかかえていたのだ。





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