第17話




 いつもはキッチンのカウンターで食事を採っているのだけどレオが座るには椅子が高すぎる。だから普段使っていないリビングのソファーに座って食事を採ることにした。

 二人で並んで座り、正面にあるテレビをつけてみるとレオは驚くような仕草をして僕にくっついてきた。テレビという物が初めてなのだろう。それからしばらくレオは夢中でテレビを眺めていた。

「レオ? そろそろ食べよう?」

 テレビを眺めているレオをしばらく眺めていたけれどいっこうに身動きひとつしないレオ。もう夜の診療時間もせまってきている。

「レオ?」

 ダメだ。何も耳に入らないようだ。レオにはもうテレビしか見えていない。僕は迷わずリモコンを取りテレビの電源をおとした。

「は!?」

 テレビの画面が真っ暗になるとレオはすぐに僕の方を見た。

「どうしたんだこれ」

 レオが身を乗り出して僕を見つめている。

「ねえレオ。僕たちはこれから一緒に暮らすことになるだろう?」

 僕がそう言うとレオは黙ってうなずいた。

「だからルールを決めないかい?」

「ルール?」

 レオは理解してくれるだろうか。ここで自由に伸び伸びと暮らしてほしいけれどそうも言っていられない。将来僕がいなくなってもレオが一人でこの国で生きていけるよう僕がレオを立派な大人に育てなければならないのだ。だったら腹をくくらなければならないのは僕のほうだ。

「ごめんねレオ。僕がテレビをつけちゃったから悪いんだけど、あ、これはテレビっていうんだ。世の中で何が起こっているのかを知ることができるし、ドラマや映画っていう物語を観ることもできる。アニメは絵が動いたりして楽しいよ。でも食事の時はテレビはやめてお互いの話をしよう」

 僕を見つめながら黙って話を聞いてくれるレオ。

「わかった」

「それと、吸血鬼といっても見た目はまだ子どもだ。だから夜は外に出ないこと。昼間は外に出てもいいけど必ずここに帰ってくるこ……」

「外には出ない」

「え?」

「ずっとここにいる。ここにある本とテレビを見てる」

「あはっ、そうか。わかった」

 その素直さと物わかりの早さに僕は思わずレオの頭をなでていた。柔らかい髪の毛の感触はやっぱりなぜか僕を落ち着かせてくれる。

「なあ」

 レオが僕を見上げた。

「ん?」

「あっちの部屋に吸血鬼が来たぞ」

「えっ」

 僕はすぐに耳をすませてみた。でも物音ひとつしない。もちろん人の気配も。

「どうしてわかるの?」

 僕が聞くとレオは不思議そうな顔をしていた。

「ドアを開ける音もしたし足音だって聴こえた。吸血鬼同士は意志疎通もできる。お前医者のくせに知らないのか?」

「はあ!? 本当に!? どういうこと!?」

 ちょっと待ってくれ。僕は頭を整理するのに必死になった。意志疎通? 足音が聴こえた? そんなの聞いたことない。僕の頭は大混乱を起こしていた。

「ほら、お前のこと呼んでるぞ」

 僕には何も聴こえないけれどレオにそう言われてひとまず立ち上がった。そうだ、とにかく今は診療しなければ。歩き出した僕は振り返ってレオに言った。

「ああ、先にご飯食べててレオ。僕は後で食べるから」

「いい。待ってる」

 そう言ったレオを見て微笑みながら僕は特別診療部屋へと向かった。





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