第15話
「レオ!」
あまりの驚きと嬉しさで僕はまた思わずレオを抱きしめていた。泥棒だと思って緊張していた僕の心は頬に当たるレオの柔らかい髪の毛の感触に意図も簡単にときほぐされていた。
「ああ、よかった、レオ」
レオが目を覚まそうが嫌がられようがかまわないと思っていた。それほどまでに僕はレオがまだこうやってここにいてくれたことが嬉しかったのだ。
「んん」
案の定目を覚ましたレオはすごい力で僕の腕をふりほどいた。寝ぼけまなこで僕を見上げたレオ。
「レオ、診療部屋にいなかったから出ていったと思ったけどここにいたんだね。よかったよ。あ、お腹すいてる? あのキッチンで何か食べようとしたのかい?」
僕はかがんでレオと目線を合わせるようにしながらそう聞くと、だんだん目が覚めてきたのかレオは何か考えるように首をひねっていた。
「あっ!」
するとレオはなぜか顔を真っ赤にして「悪い」とひと言つぶやいた。
「ん?」
「お礼に、なにか作ろうと思ったけど」
恥ずかしそうにしながらそう言ったレオ。
「あはっ。あはは。ねえ、それってレオ、もしかして僕のために何か作ってくれようとしたの?」
真っ赤な顔のレオが静かにうなずいていた。
「ありがとうレオ!」
あまりの嬉しさに僕はまたレオを力いっぱい抱きしめた。
「だから、それやめろって」
そしてまたすぐに押しのけられる。スキンシップは苦手なのか。
「もしかして触られるの嫌?」
吸血鬼とはいえまだ幼いからつい触りたくなってしまうのだ。
「嫌じゃねえ、けど、なんかここが、変になる」
レオはそう言いながら自分の胸を押さえていた。
そうか、見た目は幼いけれど、心はもう思春期なのかもしれない。家族以外からのスキンシップは照れくさい年頃なのかも。だとしたら、僕もレオを子ども扱いするのはやめたほうがいいのかも。
「わかった。極力我慢するよ。じゃあちょっと待っててね。すぐ夕食の準備するから。あ、またパンとフルーツでいいかな?」
レオがうなずいたのを見てから僕はキッチンに向かった。まずは片付けからだ。びしょ濡れになっていた床と流し台を掃除してとりあえず綺麗に片付けた。なるほど、だからパントリーにしまっておいた脚立が流し台の前に置いてあったのか。いったいレオは何を作ろうとしたのだろうか。
「わっ」
冷蔵庫から夕食の材料を取り出し振り向くとすぐ後ろにレオが立っていた。
「びっくりした、どうしたの?」
そういえば吸血鬼は気配を消すのがうまいということを思い出した。遥か昔は闇から闇へと瞬間移動していたといわれていたが、それはきっと気配がなかったからそう感じたということだろう。
「見てていいか」
僕のことを見上げているレオ。
「ああ、もちろんだよ」
僕はまたパントリーから脚立を持ってきた。そして脚立の上に乗ったレオに見られながらというなんだか妙な光景の中で料理を始めた。
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