第11話




 キッチンに戻って水筒を洗った。昨夜と同じようにフルーツをカットしてミキサーにかけた。ついでにパンも焼いておこう。少年期になったのならばもう食べられるだろう。自分用にコーヒーと、それにハムエッグも作るけれどレオはどうだろうか。きっとハムはまだ食べたことないだろう。もしかしたら卵もまだ食べたことはないのかもしれない。

「んー、んんんんー♪」

 気がつくと僕は鼻歌なんかを歌っていた。楽しくないと言ったら嘘になる。吸血鬼の成長をこんなに間近で見られることはそうないだろう。彼らがどうやって知識を得ていくのか、体はどう変化していくのかをこの目で見れるかもしれないのだ。

 いや違う。見れることを願っているだけだ。レオにもきっと両親がいるはずだ。早く両親のもとへ帰してやらなければ。わかっていることなのに、僕は一人で勝手に浮かれていた。なんて不謹慎なことを考えてしまったのだろうか。レオとレオの両親に申し訳なかったと心の中で頭を下げながら、僕は水筒を抱えトレイに二人分の朝食を乗せて診療部屋に入った。

「お待たせ」

 ベッドの上に座っているレオの前にトレイを置いた。ここには診療台のベッドとその横に小さなチェスト、僕のデスクと椅子が二つ、あとは医療器具などが入った棚がたくさん並んでいるだけだ。

 レオは僕の脇に挟んでいた水筒を見るとすぐにそれを取りあげ大事そうに自分の胸の前で抱えていた。

「ハハ、そんなに気に入ってくれたんだね」

 この水筒は僕にとっても思い出深いものだっただけに、レオが気に入ってくれたのがなんだか嬉しかった。

 僕が産まれてすぐに亡くなった、と聞いている僕の母親が愛用していた物らしく、僕も小さい頃からこれに飲み物を入れて学校に持っていっていたのだ。ピンクという綺麗な色も気に入っていたのだけど、男のくせにピンクの水筒かよと何度もからかわれたことも今となってはいい思い出だ。

 そのピンクの水筒が少し浅黒いレオによく似合っている。小さな体には少し大きいのもかわいらしい。

「僕も一緒に食べていいかな?」

 そう言ってみたものの返事はなかった。僕はトレイを挟んでレオと反対側のベッドの隅に腰を下ろした。

「パンは食べれるかい?」

 そう言ってから僕はパンをちぎって口の中に入れて見せた。

 僕のことを見つめているレオに残ったパンをさしだした。

「あっ」

 レオは僕の手からはぎ取るようにしてパンを取ると口の中に入れていた。

「慌てないで、ゆっくり噛んでごらん」

 僕は歯を見せて噛む仕草をして見せた。それを見て真似するレオ。

「どう? 食べれそう?」

 少し噛んでからレオはまたひとくちパンをかじっていた。

「あはっ、よかった」

 どうやらパンは食べられるようだ。





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