第8話
近づいていくうちに影は子どもだということがわかった。それも幼児くらいの子どもが門の前で倒れていたのだ。
「おい、どうした? 大丈夫かい?」
まだ小さくて細い体の子は何度声をかけても目を覚まさなかった。なんとかまだ息はある。
「ちょっと待ってろよ」
ここで騒いでいては誰かに見られるかもしれない。
そう思った僕は子どもを抱え上げると裏口の階段を上り特別診療部屋に入った。
部屋の明かりを付けるとようやくその子の様子がはっきりと見えた。男の子だ。黒い髪の毛は柔らかく自然なカールを帯びている。長いまつ毛が綺麗に弧を描いていてかわいらしい。肌が少し浅黒いから細い体を余計にそう見せているのだろう。
少年を診療台にそっと寝かせてから唇をめくってみた。鋭く尖った歯。やはり吸血鬼か。
どうしてこんな小さな少年がこんなところで倒れていたのか。いったい何があったのか。親はどうしたのか。何かよからぬことでも起きているのかなどと不安になりながらも僕はとりあえず少年に点滴を施すことにした。
どうみても栄養不足なのは明らかだ。サプリどころか食事もほとんどとっていないのだろう。着ている服も土汚れなのか所々茶色く汚れている。男の子のはずなのに半袖のワンピースのような布切れ一枚だ。サイズも合っていないのか小さい。
もしかするとこの子は。
とにかく眠っているうちにと歯を削ることにした。
削り終えてから僕はクリニックに下りて、患者用に用意してある洋服の中から適当にTシャツとズボンを持って戻った。ケガをして服が破けてしまったり血で汚れてしまった時のためにと子ども服がいくつか置かれているのだ。これはエリサのアイディアだ。
心の中でエリサにお礼を言いながら僕は少年の服を着替えさせた。顔や体に付いていた汚れも濡らしたタオルで綺麗に拭き取った。
やはりこの柔らかくて綺麗な肌とサイズの合わない変わった服からすると僕の想像どおりかもしれない。
この子はきっとまだ産まれたばかりだ。
そう思いながら少年の顔を眺めていると、突然少年の目が開いた。
「わっ」
あまりにも大きな目と綺麗なブルーの瞳に驚いて思わずのけぞろうとした僕よりも早く少年は体を起こしたかと思うと勢いよく診療台から飛び上がった。腕に繋がっていた点滴のスタンドが引っ張られ倒れた。激しい金属音が部屋の中に響いた。
少年は僕を睨み付けるような表情で部屋の隅に座って体を小さく丸めていた。
その姿はまるで人間を怖がっている野生動物のようだと思った。
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