第3話




 その瞬間を待っていたかのように、すぐにまた診療部屋のドアが開かれた。

「ごほっ」

 入ってきてすぐに倒れこんだ青年はお腹を押さえていた。

「おっと、大丈夫ですか」

 押さえている手のすき間から赤黒い血が流れている。

「ベッドまで行けるかい?」

 這うような格好の青年に肩を貸しながらなんとか診療台の上に寝かせた。

「すぐ縫合するからね」

 着ていたシャツを銅のハサミで切り、傷口に消毒液をビンからそのままかけ流した。

「襲われたのかい?」

「ああ、昨日の夜、ハンターに」

「そうか」

 傷口はかなり深いものだった。これは間違いなくハンターの隊長、セリオスがいつも抱えている大きな銀の斧によってできた傷だ。

「この街には吸血鬼を治療してる医者がいるって聞いてたから」

「それでこんな傷をおいながらわざわざここまで?」

 縫合を始めると青年は意識を失いそうになりながらも必死で目を開けていた。

「俺たちは何も悪いことはしていない。普通に生きていただけだ。なのに、ハンターの野郎」

「わかってるよ。君は何も悪くない。さあ、少し眠ったほうがいい」

「ありがとう、先生」

 青年はそう言って僕の手を強く掴むとすぐに目を閉じた。

 きっと一日中逃げ続けたのだろう。

 無理もない。ハンターの吸血鬼狩りは抜き打ちで一晩中行われる。

 古代吸血鬼。そう呼ばれているのは彼らが何千年も昔から存在している純粋な吸血鬼の末裔だからだ。新世代吸血鬼とは違って人間の血筋がまったく入っていない純粋な吸血鬼だ。彼らは基本単独で行動しているが、人間の夫婦のようにパートナーを見つけると番になる。番になれば常に一緒に過ごし男だろうが妊娠もし子を産むこともできる。家族を作るのだ。そして古代吸血鬼の中にはいまだに人間を襲い生き血を吸っている者もいる。

 だがこの青年が言うように、古代吸血鬼の全ての吸血鬼がそうだとは限らない。彼らだって必死で人間に寄り添おうとがんばって生きているのだ。

 それでもハンターが古代吸血鬼を狩るのは合法なのだからどうしようもないのが現実だ。

 僕はこの世界で人間も古代吸血鬼も新世代吸血鬼も、すべての命あるものを守りたい。命は平等なのだから。

 いくら寿命が長い吸血鬼とはいえケガもするし痛みもある。確かに治りも早いけど彼らにも専門医は必要だ。

 だから僕は、吸血鬼を狩るハンターの隊長、セリオス・ハーグの息子でありながら、こうやって隠れて吸血鬼を助けるために『ヴァンパイアホスピタリティー』という仕事を選んだのだ。





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