続・続・手ぶくろとマフラー

ヤマシタ アキヒロ

第5話

  ハラマキ



いちばん大事なことを

忘れていた


ハラマキは

文句なくやさしい


私はお腹を壊しやすいので

何をかくそう

家では一日中

ハラマキをしている


夏でも冬でも

ハラマキをしている


どちらかと言えば

夏のほうが

お腹を壊しやすいのだ


ハラマキのことは

漢方の先生に教わった

漢方の先生の

本で教わった


「内臓を温めると

 血流がよくなります

 血流がよくなると

 さまざまな体調が改善します

 私は二十四時間

 三百六十五日

 ハラマキの着用を

 おすすめします」


この「二十四時間、三百六十五日」

という表現が気に入って


私はそれ以来

この理論を実践している


ハラマキの何がいいかと言うと

体調面だけでなく

精神面での効果が大きい

ということだ


すなわち

心が安定し

何かに守られているという

安心感がある(ような気がする)


これは何だろう

何かに似ている


そうだ

小学校の先生だ


先生が見守るなかで

子供たちはのびのびと

勉学に遊戯に

励むことができる


じつに頼りになる

存在だ


しかしハラマキには

一つだけ欠点がある


それは着用を忘れると

かえって不安になる

ということだ


小学校の先生が見えなくなると

とたんに子供たちが

ざわつき始めるように


しかし子供たちは

いつかは小学校を

卒業しなければならない


そしてお世話になった

先生とときどき

年賀状のやりとりなどをする


私は外出先など

どうしてもハラマキの

着用が叶わない場合は


恩師に年賀状を書く

卒業生のような気分で


がんばることにしている


          (了)

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