第17話 初出勤


 

 「すみません、イブさん!そっちの書類、大佐が落としちゃって……続き番号順に並べ直してもらってもいいですか?全38ページで20部あるはずです!」

 

 「はい!」

 

 「あと中佐。これ、前回戻したやつなんですけど、やっぱり申請が通らないみたいです。この飛行ユニットの追加部分の許可はおりないみたいで」

 

 「奴らの目は節穴か。整備部で追加可能と判断されているんだ。前線でそのユニットは必須だろう」

 

 「僕もそうは言ったんですけど」

 

 「……エドヴァルトあのばかはどこをほっつき歩いてる」

 

 「あー……大佐なら参謀本部に行くって言ってそれっきり帰ってきてない、ですかねー」

 

 「軍議なら当に終わっているだろうが。……リアム、これを総務に届けるついでにあの馬鹿を回収してこい。どうせそのへんをうろついてる。ついでに奴も連れてその追加ユニットの承認を何が何でももぎ取らせろ、無理ならねじ込め」

 

 「はい!すぐに!すみません、イブさん!そっちが終わったらここにある書類と、あとそっちの資料をファイルにいれて奥の書棚に片付けてもらっててもいいですか!?」

 

 「分かりました!」


 

 仕事初日の特殊師団アルプトラオムの執務室はさながら戦場のようだった。

 非戦闘員と言われた管理官であるが、彼の主戦場はここだったのかと思うほどに慌ただしく、リアムは朝からずっと書類を片手どころか両手に走り回っている。

 

 今回もアヤセから書類を受け取るとリアムは急ぎ早に部屋を出ていった。


 

 「………………」

 「………………」


 

 アヤセと唯舞いぶの二人だけになった執務室は急速に静寂を取り戻す。

 アヤセが作業する音と唯舞の紙擦れの音だけが部屋に響き、それ以外の音は一切互いの耳には届かない。

 

 エドヴァルトあたりなら発狂してしまうかもしれないが、元々唯舞はあまり話すことを得意とはしてはいないし、こうやって集中して作業しているときはむしろこの静けさが好きだった。


 

 (全38ページの20部……これが終わったらファイル整理してあっちの書棚に戻す)


 

 頭の中でリアムから頼まれた仕事を組み立てる。

 まだ出来る事も少ないし、任されたからにはキチンと終わらせておきたい。

 

 手早くプリント類を確認して、今度は散らばらないうちに書類綴りにしてから20部再確認し、次はファイリングに取り掛かる。


 黒服は実動部隊と聞いていたが予想以上に事務仕事も雑務もあり、むしろ内勤業務の方が大変なのではなかろうかとファイリングしながらもしみじみとリアムを思い出した。

 

 昨日、『すごく大変で面倒なことばかり』とは聞いていたが、業務内容が大佐中佐クラスの補助に加えて他部署との連携、そして何かと仕事から逃走しがちな大佐の捜索だとは思わなかった。

 

 唯舞の脳内で至極楽しそうにウインクして逃げ回るエドヴァルトの姿が思い浮かぶ。


 

 (リアムさんが困るって分かっててフラフラしてるんだろうなぁ大佐。しかも、大佐を捕まえながら中佐の補助をして他部署とのやり取りまでを一人でやってたならリアムさんって本当にすごい)


 

 綺麗に整頓されている書棚は初めての唯舞でも収納場所を探しやすく、リアムと別動隊にもいるというもう一人の補佐官の有能さが伺えた。


 

 「――おい」

 

 

 ファイルを元に戻したところで唐突に声を掛けられる。

 

 唯舞が声の主のほうに顔を向ければ、そこには先ほどまで書類片手にホログラムモニターと対峙していたアヤセの姿があった。

 採光を浴びてきらきらと輝く白銀の髪は今日もとても綺麗だ。


 

 「はい、なんでしょうか中佐」

 「ついてこい」


 

 最低限の言葉だけでアヤセは唯舞に背を向ける。

 それに対して唯舞もはい、と一言だけ返事を返して二人は執務室を後にした。

 

 目的地を言わない少し足早のアヤセの背中を唯舞はただ追いかける。

 

 

 (………………どこに行くんだろう?)


 

 ふと時計機能もある手首のバングルに触れれば、時刻は13時15分と淡く表示が浮かび上がった。

 

 お昼には少し遅い……というか何時からお昼休憩なのか聞いていなかったことを思い出したが、目的地にはほんの二、三分で着いたようでその看板を見て唯舞は少しだけ意外そうに目を丸くする。

 

 

 (これは、多分そうよね?)

 

 

 目の前には駅の構内にあるような小型売店、つまるところコンビニエンスストアがあった。


 

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