第16話 似た者同士



 

 「お、着替えたね。他のサイズは大丈夫そ?」


 

 カーテンで仕切られた簡易試着室から出てきた唯舞いぶにミーアが声を掛ける。

 まだ着慣れていない感じはするし、自身がこちらの世界に転移してきた時に着ていたカジュアルスーツよりかはカッチリしているがこのあたりは時期に馴染むだろう。



 「はい、大丈夫です」

 「なら予備も含めて何着か渡すね。リアムー!あんた、イブちゃんの荷物が多いからちゃんと持って帰ってあげてよー?」

 「はいはい、分かってますよ。あっ、イブさん黒服似合ってますねー!」


 

 待たせていたはずなのにリアムは疲れた顔一つ見せずに受付台から唯舞を見て笑い、ミーアも満足げに予備のシャツやジャケットの準備をし始めた。

 確認が済んだ唯舞も一度簡易試着室に戻って元の私服に着替えて受付まで戻れば、紙袋の中身を整えながらミーアがにっこにっこと楽しげにリアムに絡んでいる。

 

 

 「ふふふ~男くさいアルプトラオムにようやく花が来たじゃない、良かったわねぇリアム。アルプトラオムの花なんて今まではカイリくらいだったでしょ」

 

 「男の少佐をその枠にいれるんですか……」

 

 「だってそこらの女子より女子力高いじゃん、あいつ。あ、イブちゃんはまだカイリ達には会ってないんだっけ?アルプトラオムの残りのメンバー」

 

 「あ、はい。まだお会いしてないです」


 

 唯舞がこの世界に来た翌日にリアム達と交代するように戦闘区に入ったという別動隊の事だ。

 三人と聞いているからそのうちの一人がカイリという人なんだろう。



 「エドもあーちゃんも中々にキャラが濃いけど、あっちのカイリとオーウェンっていう男も滅茶苦茶キャラ濃いから。イブちゃん、覚悟しておいたほうが良いよ」

 

 

 あっという間に紙袋三袋分を用意したミーアがリアムにそれを渡しながらニシシと悪戯っぽく笑う。

 そしてカウンターの下から小さめの可愛らしい紙袋を唯舞に差し出してきた。



 「はい、イブちゃんの荷物はこっちね。まだこっちの世界の商品とか分からないでしょ?とりあえずいろんな試供品とか入れておいたから使って良さげなのがあったら注文してね」

 

 「わぁミーアさん、ありがとうございます。すごく助かります」

 

 「ふふふ、どういたしまして。せっかく綺麗な髪してるんだから痛ませるのはもったいないじゃない」


 

 そう言うとミーアは唯舞の腰まであるストレートロングの淡いラベンダー色の髪を眩しそうに見つめた。



 「私なんて見ての通り癖っ毛だからイブちゃんみたいな綺麗なストレートには憧れるの。……髪、この数日で痛んじゃったんじゃない?いいシャンプーがあるといいけど」

 「ありがとうございます。今日から早速使ってみます」

 

 

 紙袋を受け取ってまた受付カウンターの端から外に出るとリアムと合流する。

 二人が並ぶ姿を見て、ミーアはまるで姉弟ねと優しく笑った。


 ラベンダー色の髪と瞳を持つ唯舞と紫紺色の髪と瞳のリアム。どちらも濃淡の差はあれど同じ紫色の系統だ。



 「……そういえば、色が似てますね」

 「イブちゃんて今何歳?」

 「え、と今22です」

 「あら、じゃあ本当にリアムと一緒なのね。その子も22よ」


 

 ミーアの言葉に唯舞とリアムはお互いの顔をみてちょっと驚いた。

 なんだか面白い偶然もあったものだ。

 

 途端にふっと唯舞とリアムの表情が緩んで場に和やかな空気が流れ、ごく自然にリアムが唯舞に手を差し出してきた。

 

 

 「それじゃあ改めてイブさん。うちの部署はものすごく大変で面倒なことばかりかもしれませんが、明日からよろしくお願いします」

 「こちらこそ、新人ですがご指導のほどよろしくお願いします」

 

 

 唯舞も差し出されたリアムの手を握り返して、向かいあったまま二人はまた笑う。

 

 この世界に唯舞が強制的に召喚されて、まだ二日。

 心の整理が出来たとは全く言えないし部屋に一人きりでいるとどうしても家族や友人の事を想って視界が滲むこともある。


 それでも、こうやって今笑えるということはきっととても幸福なことなのだと胸のしこりは押し殺して、己に言い聞かせるように唯舞は小さく微笑んだ。

 

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