第15話 軍服


 

 「ま、触らぬ神に祟りなしってやつ?特にアルプトラオムなんて最前線もいいところの部隊だからね。基本はあーちゃんが白服連中含めて誰でも容赦なく叩き潰すだろうから大丈夫よ」


 

 さらっとミーアがまた知らない名前を口にする。

 唯舞いぶがどなた?という視線をリアムに向ければ、彼は困ったように苦笑しながらも教えてくれた。

 

 

 「ミーアさんが言ってるのはアヤセ中佐の事です。ミーアさんにとっては僕も含めて中佐も後輩みたいなものなんですよ」

 「そーそー!みーんなあたしの可愛い後輩ちゃん達よ~♪特にあーちゃんみたいなつんつんしてるタイプはいじり倒したくなるの」


 

 ニッと悪そうに口角を上げたミーアに、リアムは中佐をからかうのも程々にして下さいよ~と少し疲れたようにため息交じりに笑った。

 冷淡なあのアイスブルーの瞳を思い出して唯舞は不思議に思う。

 

 

 (そういえば、中佐は大佐からも”アヤちゃん”って呼ばれてたっけ?)


 

 確かにアヤセのことを”アヤちゃん”と呼ぶエドヴァルトを唯舞は何度か見たことがある。

だが、それを当のアヤセが訂正させたりやめさせたりする様子は今までになかった。

 

 ”アヤちゃん”にしろ”あーちゃん”にしろ、そんな可愛らしい呼び名が似合う人ではないと思うのだが、意外と年上のお兄さんやお姉さんに可愛がられるタイプなのかもしれない。



 「あっとりあえず、イブちゃん!ちょっと今のうちに制服を試着してみよっか。初めてだし、サイズ変更があるのなら交換してあげられるから」

 

 「あ、はい。お願いします」


 

 おいでおいでとミーアに手招きされて、唯舞は受付台の端の一部ウエスタンドアになっている所から管理庫内に入った。

 軍全体の制服を管理しているだけあって倉庫内は受付から見るよりもかなり広く、膨大な量の制服がずらりと並んでいる。

 

 

 「試着室、ってのはないんだけどあっちの角のカーテンで囲ってる所なら着替えられるから。着替え方が分からなかったら声かけてね。リアム坊やは覗いちゃだめよー?」

 「覗きません!もう!」

 「あははは~」


 

 ふたりの会話を聞きながら唯舞はミーアに軽く頭を下げて、手渡された制服を手に奥の仕切りに向かった。

 畳一畳分くらいに仕切られたそこにはパイプ椅子とスタンドミラーが置かれて簡易の試着室になっている。


 

(軍服……とはいったけど、制服のブレザーとあまり変わらないかな?リアムさん達の制服とは結構違うみたい)


 

 色こそは同じ黒服だが、ミーアの言っていたように非戦闘員になる唯舞の制服は比較的シンプルなものだった。

 

 上襟下襟ともに大きめで着丈の長い縦長のジャケットに襟付きのシャツ、体のラインが強調され過ぎない緩めのカジュアルタイトスカートは膝上丈で両側にスリットが入っている仕様だ。

 

 一応、非戦闘員とはいえ黒服は実動部隊ということだから動きやすさを重視しているのかもしれない。

 ただ、やはりジャケットの肩についている肩章だったり、袖口の金糸の装飾には軍服らしさが見えた。


 一緒に用意されていた靴下とクラシカルな編み上げ式のブーツに足を通せば着替えは完成だ。


 

 (ブレザーに似てると思ったけれど、着てみたらやっぱり違うなぁ……)


 鏡に映る自分の姿をとりあえず一回転して見てみる。

 服のサイズは問題ないように思えたが、少しだけブーツが大きいかもしれない。



 「イブちゃーん?どぉ?着替えられたー?」

 「あ、はい!あの、ブーツだけワンサイズ下に出来ますか?」

 「オッケー!ブーツね、ちょっと待っててねー!」


 

 声を掛けたミーアの足音が離れていく。

 さすがは軍用のブーツだけあってつま先は硬く、ソールも滑りにくくなっているがその分重さもあり、サイズが合っていないと履き続けるのは大変そうだ。


 

 「はい!ワンサイズ下。靴は特にメーカーでサイズが変わるから厄介だよねー」

 


 カーテン越しにスッとブーツが差し入れられ、唯舞は礼を言って履きなおし、再度サイズを確認してから試着室を出た。

 

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