第13話 内部の食事事情
カフェテリアはアルプトラオムの宿舎から歩いて五分程度の場所にある。
毎食食べると考えたら若干遠い距離ではあるが、これもアルプトラオムの宿舎だけが離れた場所にあるからだ。
カフェテリア自体は一般軍人の宿舎の横にあり、ビュッフェ形式メインの食事が軍人なら三食全て無料で食べられるとのこと。
エドヴァルトが思い切り職権乱用してアルプトラオムの補佐官としての役職をねじ込んだので明日からは
宿舎を出る前にリアムから身分証としてアルプトラオムの識別IDの登録されたバングルを受け取ったので今日からもうカフェテラスを含めた軍内部の施設を利用することができるらしい。
「でもまぁ、時間が合わなかったり行くのが面倒で宿舎で食べる事のほうが多いんですけど。帰り道にお店もあるので」
「あぁ、確かに私も疲れている時は外で食べるより部屋のほうが落ち着くかも」
「ですよね~しかもカフェテリア自体は24時間開いてるけど、ビュッフェの提供は朝と昼と夜だけであとは全部軽食なんです。そうなるとどっかで買って帰ったほうが楽なんですよね」
職場でもある軍部にも専用の無料食堂はあるらしいが、これまたアルプトラオムの部署からは端から端くらいの距離で遠いらしい。
そうなると自然と利用することは少ないそうだ。
そんな会話を道すがらすれば、あっという間に五分という距離は経って目的地に到着する。
ガラス張りのお洒落な今どきのカフェテリアといったそこにはテラス席まですでに人が溢れていた。
「基本、昼間は非番の人が利用するけど、軍食よりこっちのほうが美味しいのでわざわざこっちにまで帰ってくる人もいるみたいですよ。あっイブさん、そこにバングルをかざしてください」
リアムに言われたように手首の少し太めのシルバーバングルを出入り口に設置されているモニター部分にかざせば点滅が赤から緑に変わって自動ドアがサッと開く。
唯舞の働いていた会社でもフロアごとにこういった認証はあったが、その時は首掛けのカードタイプだったのでこのバングルタイプはカードを引っ張り出す手間がなくてとても勝手が良い。
しかも有難いことに決済機能や通話機能まで付いているらしく、軍部内外問わずにこのバングル一つで手荷物要らずだとリアムが教えてくれた。
形こそC型バングルだが、
(魔法ってすごいなぁ……)
がやがやと雑多な音や声と共に一気に開けた大空間におおっと唯舞は大天井を見上げた。
オープンスペースには私服の隊員とちらほら軍服の隊員の姿もある。
「あ!今日は当たり日ですよ、イブさん!ケーキバイキングの日だ」
リアムが唯舞の分のトレーも取って手渡しながら嬉しそうに目を輝かせた。
目線の先には確かに”本日ケーキバイキング”と書いてある看板が目に入る。
この世界は言葉こそ日本語と同じだったが、残念ながら文字は明らかに日本文字ではなかった。
でも、何故か書いてある文字は読めるし、唯舞が日本語で書くとこの世界の文字になるらしく、よく原理は分からないが今のところ生活には困らずに済んでいる。
トレーに皿を置いて唯舞はリアムと共に食事が並べられている一角に足を向けた。
「ケーキバイキングって滅多にないんですか?」
「そうなんですよ!いつもデザートはソフトクリームかゼリーくらいでケーキ類はシェフの気まぐれだから滅多に出ないんです!」
チーズケーキとショコラケーキがお薦めですよとリアムは至極嬉しそうだ。
並んだ食事はどれも美味しそうだったけど、唯舞はリアムにお薦めされた一口サイズのチーズケーキとショコラケーキを一番最初に選んで皿にのせる。
(……弟もなんだかんだで甘い物が好きだったし、リアムさんも好きなんだろうな)
るんるんと何個もケーキを取るその姿はまるで少年のようで。
現世に残してきた高校生の弟の姿を思い出した唯舞はほんの少しだけ切なげに瞳を細めた。
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