第12話 共同生活
「イブさん、この荷物はこっちに置いておきますねー」
「あ、すみません。ありがとうございます」
運び込まれる荷物を仕分けしながら
この
あの日の翌日には唯舞は彼らと共にザールムガンド帝国首都ヴァインの軍本部に向かう事となった。
前線を離れてもいいのかと尋ねれば、別動隊と交代するから大丈夫とエドヴァルトは軽やかに笑う。
話を聞けばずっと戦場にいては心身ともに参ってしまうから別動隊と交代で前線に立っているとのことだった。
そういえばこの特殊師団には他にもメンバーがいるとリアムが言っていたからきっとその人たちの事だろう。
「よし、荷物はこれでラストです。不足品も出ると思うのでその時は備え付けのタブレットから注文してくださいね。当日中か、翌日には届きますから」
一階から最後の段ボールを部屋に運び込んだリアムがふうと息をついて唯舞に笑顔で声を掛けた。
「ありがとうございます。リアムさんすみません、手伝ってもらって」
「いえいえ。これくらいなら全然構いませんよ~」
あの日の夜はエドヴァルトの勧めもあって唯舞は兵社内の個室を使わせてもらった。
リアムが自身の服を寝巻として貸してくれたり、エドヴァルトが他部署の女性隊員からトラベルセットを貰ってきてくれたりしたので彼らの心配りには本当に感謝している。
アヤセとはあの後、軍議があるといって兵舎を出ていったきり首都に戻ってからも姿を見ていなかった。
ちらりとリアムが部屋の時計に目を向けて作業の手を止める。
「あぁもうお昼ですね。カフェテリアで昼食を食べてから頼んでいたイブさんの制服を取りに行きましょうか」
「あ、はい」
今、唯舞達がいるのはアルプトラオム専用の宿舎だ。
軍に所属している者は基本的には宿舎生活らしく、その中でも特殊師団のアルプトラウムには他とは違い専用の宿舎が与えられているらしい。
そこはかなり豪華なシェアハウスのような二階建ての宿舎で、一階に大佐・中佐・少佐クラスの部屋とキッチンやラウンジといった設備があり、二階がそれ以下の人間が使用する部屋との事だったので唯舞も二階の空き部屋を使わせてもらう事になった。
大佐クラスになると部屋にユニットバスがあるらしいが、唯舞達二階は共同シャワーと共同トイレがそれぞれ二つあるだけ。
なのでその一つをリアムが唯舞専用にと提供してくれた。
一度は遠慮した唯舞だが、元々、上を使う人間は三人しかいないし、現状で使うのは唯舞と自分だけだから問題ない、むしろ専用で使ってくれた方が色々と助かりますとリアムが少し照れたように言ってくれたので唯舞も有難くその提案に乗ることにした。
(一応、男女だから……ばったりお風呂場で遭遇、なんてことがあったら気まずいもんね)
弟や父親でさえ、脱衣所で遭遇したらかなり気まずいのだから異性相手ならもっと気まずいことになるだろう。
そういう展開は漫画やアニメの世界だけで十分だ。
現在のアルプトラオムには別動隊のメンバーがあと三人いて、基本的に三人一組で行動しているので六人が揃うことは年に数回程度しかないらしく、現状男三人、女一人の四人での共同生活がこうして始まった。
*
「――おい。お前は異界人についてどこまで知っている?」
唯舞とリアムが楽しげに連れ立って外出する様子を自室から見ていたエドヴァルドの背中にアヤセの声が刺さる。
それに対してエドヴァルトは微動だにしなかった。
彼の
「どこまで……か」
パタンとドアが閉まり、静寂が支配する部屋でぽつりとエドヴァルトが呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく淡雪のように溶けていった。
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