第11話 今後について
その後は重めの話ではなく、
この世界には異世界あるあるの獣人やエルフといった別種族はどうやらいないようで、魔法や精霊といったファンタジーな要素はあるが手元にあるコーヒーのように大体の世界水準は変わらないらしい。
食生活もやや西洋寄りだが、ライス……つまり米もちゃんと流通しているらしく、米大国ニッポンの唯舞としては米恋しさにむせび泣くことは回避された。
「だあぁあぁぁぁぁぁ!終わった――!」
「五月蝿い。お前はいい加減黙れ。普段は仕事しないんだからこういう時ぐらい働け」
ガチャリと兵舎のドアが開いて一気に室内が騒がしくなる。
エドヴァルトとアヤセだ。
戦闘区域に行っていたというのに彼らは最初会った時と何一つ変わった様子はなく、怪我もしていないように見える。
(まぁ……凄い人達なんだもんね)
はっきり言って海ほどの
そこで唯舞はハッと自分が借りた上着の存在を思い出した。
エドヴァルトはコートも上着も自分に貸してくれたのだ。
お礼を言わなくてはと腰を浮かそうとした唯舞を察したのか、いち早くリアムが唯舞の肩にかけたままの上着をそっと優しく取って微笑んでくれる。
何事かと思ったら、次の瞬間手元のコートと今受け取った上着の二着をメジャーリーグ選手も真っ青な全力投球でエドヴァルトに投げつけた。
「い”っったいよ!リアム!何すんの!」
「ありがとうございました、大佐。コートも上着もお返しします。良かったですね、可愛い女の子が使ってくれた上着だなんて家宝ものですよ」
(えぇぇぇぇぇ……)
ぎゃいぎゃいと始まったのはまるで小学生の喧嘩だ。
先ほどのアヤセとの会話でも思ったが、上司と部下の会話にしてはかなりフレンドリーすぎる……というかエドヴァルトが一方的に他の二人からいいように言われている気がする。
取っつき難い上司よりはいいのかもしれないが、どうにもこの人達の距離感が掴めない。
「……おい」
「あ、はい……」
あの氷の麗人ともいえるアヤセが唯舞に声を掛けてきた。
先ほどより近く、その綺麗だけど冷たいアイスブルーの瞳が唯舞を捉える。
「お前の身柄だが、
「アヤちゃんの言い方!ごねてないしっ!」
「黙れ。珍しく前線に出てきたかと思えばこの女をうち預かりにしないと戦場に出ないとごねたのは誰だ?」
「そりゃ勿論俺だけど、他に預けるよりうちで面倒見てあげた方が安心じゃん?アルプトラオムに手出ししてくる奴なんて基本いないんだから」
そう言うとエドヴァルトは投げつけられた上着類を文句言いながらも片付けて唯舞の元までやってくると、先ほどのようにしゃがみこんで笑った。
「
(……ぁ…………)
どうしてだろう。
何故だか分からないけれどリアムと違ってエドヴァルトは確かに”唯舞”と日本語に近い呼び方をした気がする。
発音の差なんてそんなにないはずなのに、なんとなくそう感じて唯舞は思わず拳を握りしめた。
「リアムから説明聞けた?」
「はい、一通りは。……まだ、飲み込めないことのほうが多いですけど」
そうだよねぇとエドヴァルトは申し訳なさそうに唯舞の頭にぽんと手を置く。
唯舞を見上げてくる琥珀色の瞳はどこまでも優しい。
「無理やり別世界に連れてこられて混乱しない訳がないから……落ち着くのはゆっくりでいいよ。ただ、これだけは覚悟しておいて欲しい。もしかしたら元の世界に帰る手立てはあるのかもしれないけれど、少なからず俺達は異界人が元の世界に帰ったという話は伝え聞いてない」
エドヴァルトの言葉はズンっと唯舞の心に落ちる。
それは、もう二度と、家族にも友人にも、先輩や同僚にも会えないことを示唆していた。
異世界ならそういう事もあるのかもと、頭のどこかで思ってはいたが突き付けられると堪えるものがある。
「…………やっぱり、そう……ですか」
「うん。――ごめんね」
何故エドヴァルトがそんなにも悲痛そうに謝るのだろう。
そう思ったが滲む視界に唯舞はもう何も言えなくなって、握りしめた拳を見下ろすようにただただ俯いた。
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