第10話 この世界について


 

 「そういえばリアムさん。最初はこの戦争は領地争いあるって言ってましたけど、つまりそれ以外の理由もあるってことですよね?」

 


 戦争はそれこそ小さな諍いから国家同士の争いに発展する場合もあるが、とりわけ多いのはきっと思想の違いだ。

 唯舞いぶの問いに鋭いですねとリアムは苦笑した。


 

 「簡単に言えば宗教対立、です。まぁザールムガンド帝国うちには特にこれといった宗教はないんですけれど、リドミンゲル皇国はこのイエットワーと精霊達を国教として崇めているんです。別にそれ自体は全然構わないんですけど、昔からガンガン精霊と契約して軍事拡大してたうちが皇国はどうにも許せないらしくて……ことあるごとに色々いちゃもんをつけてきたのが発端みたいですね」


 「あぁー…………なるほど」


 それが個人間の話ならまだ距離を置けばいいだけだが、国家間の話になるととてつもなくややこしくなるのだろう。

 八百万の神々の国・日本で生きてきた唯舞にはやはり教科書やニュースの世界の話でしかないが、宗教戦争ほど根深いものはないことは歴史をみれば明らかだ。



 「最初は本当に小競り合い程度の事だったらしいんですが、まぁうちもあっちも大国ですからね。規模はどんどん拡大していって泥沼化。そしたらリドミンゲル皇国が秘術とかいうので異界人を召喚して一気に国力を上げて攻め込んでくるもんだから、うちはそれに対抗して精霊と契約して軍事力をさらにあげて……の繰り返しです。その結果、多くあった国々はうちかリドミンゲル皇国に統合され、残ったアインセル連邦とレヂ公国は文明保護と民族保護の為に国際協定にて完全中立を貫くことになりました」



 アインセル連邦は異なる人種が多く住まう多国籍の国らしく、レヂ公国はこの世界一の魔法学術都市なのだという。

 リアムから世界地図を見せてもらったが、ものすごく簡単にいえば北アメリカ大陸と南アメリカ大陸がリドミンゲル皇国、ユーラシア大陸がザールムガンド帝国、オーストラリア大陸がレヂ公国でアフリカ大陸がアインセル連邦といった感じだ。

 そして北極海と北太平洋のアメリカ合衆国とロシアの間が地続きになっていて、そこが戦闘区、つまり今唯舞がいるこの場所らしい。

 

 本音を言えば、どうせ転移させられるのなら戦争のないアインセル連邦かレヂ公国が良かったと思わないでもないが、強制的に連れてこられた以上唯舞に選択肢はない。

 


 「でも、これだけ国土が広ければ領地拡大なんて…………あ、それがさっきリアムさんが言った砂漠化ですか?」

 

 

 世界地図を見てふと思いついた。

 地球にだってサハラ砂漠やゴビ砂漠といった広大な砂漠地帯が存在していた。しかも世界の砂漠地帯は今も地球温暖化の影響もあって毎年広がりを見せており、そしてそのほとんどが人為的原因によるものだ。

 それならこの惑星でも、文明の発達は勿論あるのだろうが、最たる要因としてはこの二国間の戦争で肥沃な大地が枯れ果てて土地が劣化してしまい、砂漠地帯にでもなってしまったのではなかろうか。

 

 そしてその考察は大まかには合っていたようでリアムが感嘆の声をもらした。

 

 

 「凄いですねイブさん。その通りです。理力リイスとは本来は惑星の力です。それを両国が戦争で枯渇寸前まで乱用したのが砂漠化の要因ですね」

 

 「でも借りた理力リイスってみんな生命力で返しているんですよね?」


 

 借りた分を返しているなら理力リイスが不足することはないだろう。

 それでも砂漠化が進むほど不足しているというのなら、きっと別の要因があるのは違いなかった。

 唯舞のその問いに対して、リアムは苦笑いを浮かべる。


 

 「えぇ、今でこそ国際条例で禁止されていますが、当時はこの戦争間で精霊を介さない自身の生命力を越えた理力リイスの特攻が両国共に数多くあったからなんです」


 

 惑星から直接理力リイスを引き出す力。そしてその対価は”自身の寿命”。

 自身の生命力を越えた理力リイスならば、回収できない部分もかなり出てきたのだろう。

 なるほど、やはり戦争というものの前では人の命は薄紙一枚にも等しいものなのだ。


  

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