第9話 理力のしくみ②


 この世界の理力リイスがリースと同じようなものならば理解は早い。


 

 「じゃあ一定期間過ぎた理力リイスって使えなくなるんですか?」


 

 唯舞の覚えている限りではリース期間というのは大体数年単位の契約になる。

 そして時期が来たら現在借りているものはリース会社に返却する決まりになっていたはずだ。

 最初に一括購入して初期投資をかけるよりも、リースで借りた方が会社としては経理上の取り扱いやコスト管理がしやすくなると事務の先輩から聞いたことを思い出す。


 確かに世の中は常に進歩していて毎年新しい物が出回るし、古いスペックのものをずっと使用するよりも数年ごとに新しい製品にしていったほうが効率がいいのだろう。

 


 「契約が切れた理力リイスは再契約が必要ですね。大体契約期間は5年なので、その時期になったら新しい精霊にお願いするか、今の精霊と良好な関係が築けていたなら再契約が可能です」

 

 (うん、お得意先とは仲良くしようねってやつだ)


 

 やはりちょっとでも分かるとっかかりがあると飲み込むのが容易になる。

 ……カタカナ横文字長文だけはちょっと難しいけれど、理力リイスの仕組みならなんとなく分かった。


 そんな唯舞の様子にリアムは少し驚いたように目を開く。


 

 「というかイブさん、理解が早いですね。異界人の世界には魔法の類いはないと聞いていましたが」

 「あぁはい、そうですね。魔法とかは正直まだよく分かっていないんですけど、理力リイスの仕組みに関しては似たようなものがあったので何となくは分かりました。もしかして理力リイスを精霊なしで使用することも可能なんですか?」


 

 所謂、メーカー側に所有権があるオペレーティング・リースではなく、割高にはなるが最終的に購入するファイナンス・リース、もしくは初期投資の一括購入。

 

 それがこの魔法にもあるのだろうかと思ったが、リアムは少し難しそうな顔をした。


 

 「出来なくはない……というのが答えですかね。確かに精霊を介さずに理力リイスを使う事自体は可能です。その場合は惑星から直接理力リイスを使用するので上限というものがありません。なのでふる理力リイスには爆発的な威力を見込めますし、切り札としては最適かもしれませんが………………ただ、その際の対価は”本物の生命力”です」

 「本物の、生命力?」


 

 生命力の話は先ほど聞いたばかりだから覚えている。

 理力リイスを使うには毎月寝て治るくらいの生命力を精霊に渡すのだと。

 

 ただ、そこをあえて”本物の生命力”と言うのならば。


 

 「そうです。寝て起きたら回復する通常の理力リイスとは違い……精霊の介入がない、惑星から直接理力リイスを使うには寿命そのものを対価として支払うんです」

 

 「あぁ……なるほど。それは、すごく危険ですね……」

 


 リアムの答えは唯舞の予想よりも何倍も物騒だった。

 この世界には一括購入ないし、ファイナンス・リースは無いものと認識した方がよさそうだ。

 自分の命を縮めてまでも理力リイスを使いたがる人間なんて奇人変人の類いでもそうはいないだろう。


 

 「だからこそ僕らにも理解できない理力リイスの力なのか、はたまた異界人特有の全く別の力かは分かりませんが、たった一人で一国の国力を上げてしまえる異界人は僕らにとっても看過できない存在なんですよ」

 

 聞けば、今から10年以上前にも唯舞と同じく異界人がそのなんたら皇国に召喚され、当時の戦況はかなり押され気味になっていたらしい。

 

 その時にはすでにエドヴァルトは軍人として前線にいたらしく、ムードメーカーそうな彼にしては苦虫を嚙み潰したような顔で当時の事はあまり語らなかったのだとリアムが言っていたから、本当に酷い状況だったのかもしれない。

 

 そこで唯舞はふと考える。

 領土問題があるにしろ100年以上もの長い間続くという両国の戦争というものは果たして本当に領土だけの問題なのだろうか?

 

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