第8話 理力のしくみ


 

 (海……)


 

 それは確かに化け物と言われても仕方のないことかもしれない。

 前線で戦う軍人がドラム缶一つ分の理力リイスを持つ世界で、海ほどの広大な量の理力リイスを持つとなるとそれはれっきとした化け物だ。

 リアムが軽く指を振ればパシュンと水の球体は霧散した。


 

 「さっき、外で雷光とか巨大な氷晶が見えたでしょう?アレですアレ。あれがうちの上司なんですよ。もー嫌になっちゃうくらいの異次元の強さなんです」


 

 まぁ大佐は滅多に仕事しませんが……と続けてリアムも唯舞いぶとは反対側のソファーに腰を下ろしてコーヒーを口に運ぶ。

 成程、そう言われてしまうとリアムの非戦闘役職というのも納得がいった。

 あの時見た雷や氷の結晶は、唯舞の目から見てもまるでハリウッド映画のようなそれは凄まじいものだったから。

 


 「それでこの理力リイスですが、いくら大佐達でも使うのには絶対上限があります。カップならカップ、ドラム缶ならドラム缶、海なら海の容量があるからです」

 

 「なるほど」

 

 

 それは何となく唯舞にも分かった。

 弟がしていたゲームでも魔法や技を使う時にはMPマジックポイントを消費してMPそれがなくなると魔法が使えなくなっていたからきっとそういう感じなんだろう。

 ちなみに唯舞は弟の隣でずっとプレイを見ているタイプの人間で実際にやってみた事はない。


 唯舞の飲み込み具合を視線で確認しながらリアムは話を進めていく。


 

 「そしてその容量いっぱいまでなら理力リイスを貸してくれる存在が精霊です」

 「…………精霊」

 

 

 THEファンタジーの代名詞の一つでもある精霊。

 現世ではもちろん、ゲームや映画、おとぎ話の中でしかお目にかかったことなどない存在だ。

 だが、話を聞くにこの理力リイスという魔法に溢れた世界では当たり前のものらしい。

 


 「精霊は理力リイスをイエットワーから抽出できる力を持ちます。あ、イエットワーというのはこの惑星ほしの名前です」


 

 そう言うとリアムはまた器用に水の球体で手のひらサイズの惑星を作り上げ、その周囲に妖精や視覚化した理力リイスの流れを再現してくれた。

 地球によく似た球体の惑星の周りをキラキラした靄のような膜が覆って、そこから色とりどりの光が消えたり浮かんだりしている。

 この膜が理力リイスで色とりどりの光が精霊なんだろう。

 

 百聞は一見に如かず、とはよく言ったもので言葉で聞くよりも視覚からならすんなりと入り込んできた。


 

 「それで妖精達は抽出した理力リイスを僕らに貸し、僕達は妖精達に借りている一定期間は毎月対価でもある生命力を支払います。そしてその生命力の一部は精霊に、残りは惑星に還ってこの世界を保っているんです」

 

 「生命力……!?」


 

 思わず声を荒げてしまい、唯舞は慌てて片手で口を覆う。

 ”生命力”といえば恐らく理力リイスの対価は命という事だ。

 そんな物騒なものを差し出さないとこの魔法は使えないのかと驚愕すれば、訂正するようにリアムは笑う。



 「生命力といっても一晩寝れば回復する程度です。貧血に近い状態だと思ってもらえばいいかな?理力リイス量の多い大佐達は二、三日は休んじゃいますけどね」

 

 「………………なるほど?」

 

 

 見てるだけで楽しい?と言われた弟のゲーム情報がこんなところで活きるとは思わなかった。

 つまるところ、RPGで言うところの宿屋で休んだら体力精神力共に全回復、というやつなのだろう。

 

 異世界転生や転移によくある神様や水先案内人なんて存在ひとは唯舞にはいなかったけれど、どうやらアニメやゲームが大好きだった弟の存在が唯舞にとってのそれに当たるようだ。

 


 (それにしても理力リイス……ね)


 

 聞いた話をまとめるように唯舞はふむと考えた。

 この惑星が持つ理力リイスという力。そしてそれを抽出できる精霊に、精霊から毎月一定の自身の生命力を対価に理力リイスを借りる人間。


 

 (賃貸借リース、ということなのかな?)


 

 現世ではOLだった唯舞も自社の持つパソコンなどリース契約していたから何となく分かった。

 ユーザーが理力リイスを使う人間で、リース会社が精霊、メーカーにあたるのが恐らくこの惑星そのものだ。

 言われてみれば言葉もリイスとリースで分かりやすいし覚えやすい。


 ファンタジーな世界なのに現実との共通点を見つけて唯舞はなんだか少しだけほっとした気持ちになった。

 

 

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