第7話 理力


 

 「ちなみにさっきの理力リイスという魔法ですが、僕は水の精霊と契約しています」


 

 話題を変えるようにリアムは、少し声色高く言った。


 

 「理力リイスは全ての人間が使えるわけではないですが、軍人になるには必須項目になります。その中でも僕が所属しているアルプトラオム特殊師団は理力リイスのエキスパートです」

 

 「リアムさんが水ってことは他にも?」

 

 「えぇ、イブさんが会った中ではエドヴァルト大佐は雷を、アヤセ中佐は氷の精霊と契約しています。それ以外のアルプトラオムのメンバーも風・火・大地の精霊と契約してますね」


 

 おぉこれぞ聞いていたファンタジーだと唯舞いぶは心の中でパチパチと拍手した。

 弟から聞いていた異世界での物語は魔法や剣で戦うものが多かったし、さっきの召喚の話を聞く限り自分にも何かしらの力があるのではないかとほんのちょっと考えてしまう。

 

 

 「ただ、理力リイスはあくまでも精霊から借りるものなので、一定期間ごとにその対価を精霊に返さなければいけません」

 「対価を……返す?」


 

 どういう事だろうと唯舞は小首を傾げた。

 弟がやっていたRPGのゲームでは魔法はMPマジックポイントとかいうものを消費して使っていたが、そんな感じではないのだろうか?

 

 首を傾げたままの初心者の唯舞に対してもリアムは優しく微笑んで理力リイスについて簡単に説明しますねと人差し指をスッと立て、指先に水の球体を浮かび上がらせた。


 

 「まず理力リイスですが、これは先ほども言った通り使える量にはかなり個人差があります。一般人なら全くない人間も多いですし、あってもこのカップ程度。軍人になるには最低でもバケツ程度の理力リイス量が必要です」


 

 リアムが作った水の球体はカップ、バケツと形を変えながらぐねぐねとその大きさを増していく。

 そしてその後は一気にサイズを変えた。


 

 「前線に立つ人間になると、大体このドラム缶くらいの理力リイスを扱えることが大半ですね。これくらいないと戦力になりません」

 「え、っと……じゃあリアムさんも?」


 

 こんなにも理力リイスとやらを扱えるのだからきっと凄い軍人さんなんだろう。

 そう思って思わず口から出た言葉だったが、リアムは少し照れたように笑いながらもどこか遠い目をした。



 「そうですね、一応僕もドラム缶数個程度の理力リイスは所有しています。ただ、僕が所属するアルプトラオムは特殊師団と呼ばれるくらいの理力リイスのエキスパートなので……その、謙遜抜きで僕でもあまり役に立たないんです」


 

 リアムのその言葉に唯舞は真顔ながらに驚いた。

 

 普通の人がカップくらいで、前線に立つ軍人もドラム缶くらいの理力リイスを持つという世界線で、ドラム缶数個もの理力リイスを持っているリアムが役に立たないとは一体どういうことなのだろう。


 そんな唯舞の考えを読み取ったようにリアムは苦笑する。

 


「そうなんです。アルプトラオムって化け物しかいないんですよ。僕は確かに一般の軍人よりかは理力リイスを扱えますが、あくまでうちの部隊では管理官という非戦闘役職でしかありません。――さっき会った、大佐や中佐の理力リイスってどのくらいだと思います?」

 


 そう問われて唯舞はうーんと考えた。

 

 ドラム缶数個もの理力リイスを持つリアムが戦闘員ではないというのだから、その上司でもあるエドヴァルトやアヤセはもっと凄い理力リイスの持ち主なんだろう。



 「……じゃあ、プールくらい?」


 

 少し大げさだろうかとも思ったが、唯舞の脳裏にパッと浮かんだのは学校によくある25mプールだった。

 いくらなんでもドラム缶から飛躍しすぎたかなと思ったがふるふるとリアムは首を横に振る。



 「――――、です」

 「……………………へ?」


 

 聞き間違いかとリアムの顔を見れば本当にげんなりとした表情で彼は遠くを見ていた。

 どうやら唯舞の聞き間違いというわけでもないらしく、彼は再度唯舞に視線を合わせて諦めにも似た乾いた笑みを浮かべる。

 

 

 「あの人達、二人して海くらいの理力リイスを内包しているんですよ」


 

 ね?本物の化け物でしょう、と付け足してリアムは盛大なため息をついた。

 


 

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