第2話 初めまして、こんばんは
「大佐――!もしかして、
大佐と呼んだ男の肩を両手で激しく揺さぶりながら紫紺髪の青年は半泣きで訴える。
ぐわんぐわんと首が大きく前後する姿がまるで起き上がり人形のようでちょっと面白い。
「ちょ、ちょっ!リアム。ステイ、ステーイ。俺の首がもーげーるー」
「いっそもげて下さいよ!異界人っていったらリドミンゲル皇国の管轄ですよ!?なんですか!死ぬんですか!?僕は嫌ですからね!まだ予約したゲームも届いてないのに!死ぬなら大佐一人で死んで下さいよ!?」
置いてけぼりになった
ひとまずそのまま黙って周囲の観察を続ければ、今自分が腰かけている木箱を並べただけの簡素な椅子もどきの横に仕事用のバッグが置かれてあるのに気が付いた。
抱き込むようにそっと手元に寄せて、鞄の外ポケットからスマホを取り出せば時刻は0:00ちょうど。
居眠りをしてほんの10分ちょっとしか経っていないのかとも思ったが、そこで違和感に気付く。
唯舞のスマホの時計は何時何分何秒までしっかりと表示されるはずなのに、一向に秒針が動く気配がないのだ。
画面はずっと00:00:00で止まったままに、電波も当然のように圏外になっている。
(電波がない?……それとも、壊れた?)
かなり高い位置にある明かり取りのはめごろしの窓から見える外は真っ暗だから今が夜なのは間違いないが、それ以上の情報はない。
唯舞が自力で何とか分かる情報整理は早々に終了してしまった。
「ほらほら、リアム。お前より彼女の方がよっぽど落ち着いてるよ?この状況が一番訳わかんないのは彼女でしょ?」
自分に話題が向いたことに気付いた唯舞はバッグをぎゅっと抱きしめながらも顔を上げる。
恐らく彼らは車掌でも、ましてや自衛隊でもないのだろう。
(私も、怪我はしてない……)
あの後、何らかの事故が起きて自衛隊までもが派遣されるほどの大惨事になったのだとしたら、救助されて真っ先に搬送されるのはこんな倉庫ではなく病院のはずだ。
だが、非常に残念なことに唯舞の耳に届いたのは長ったるいカタカナと帝国、そして大佐というワードだけ。
あとは申し訳ないが記憶のかなたに全部スッ飛んでしまった。
大佐と呼ばれたサングラスの男が唯舞の元まで歩み寄ると、目線を合わせるよう腰を落としたところでガチャリとドアが開く。
「――おい、お前達。ここで一体何をしている」
「ちゅ、中佐……」
「お、アヤちゃんお帰り♪早かったねー」
(………………増えた)
現れたのは声色からしてもクールそうな印象の男だった。
顔立ちはビックリするくらいに綺麗だが、美人相まってめちゃくちゃおっかないオーラを全身に漂わせている。
そんな彼のアイスブルーの怜悧な瞳がぎらりと唯舞を見下ろした。
「……なぜ一般人がここにいる」
「え、ええとですね、中佐。これにはちょっと色々と面倒な事情が」
「そんなの見て分かる。――今度は何をやらかした、エドヴァルト・リュトス」
カツカツと靴底を響かせて中佐と呼ばれた青年は唯舞達に近付く。
彼の後ろでは「僕は知りませんよ~」然したリアムが降参するように両手を上げていた。
「この女は?」
「またまた。”女の子”、でしょ。ただでさえ愛想がないんだからそんな言い方したら怖がられちゃうよ」
「そんなことはどうでもいい。何故、最前基地に一般人の女がいる?」
中佐と呼ばれた男の冷ややかな視線を感じるが、どうしたものか。
とりあえず会話はあちら側で勝手に続いているようだったので唯舞は何も言わずに黙っていることにした。
うーんと、エドヴァルトと呼ばれた男は苦笑して唯舞を見る。
「一般人……かは、若干怪しいんだけどね」
エドヴァルトの言葉に彼は怪訝そうに柳眉を
真意を探るように彼の視線も唯舞に向けられ、思わずバッグを握りしめる手に力が入る。
「彼女は……恐らく異界人だよ。何らかの理由があってリドミンゲル皇国ではなくこちら側に辿りついた、ね」
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