依り代と身の代が交わるとき。

吉野 真衣

依り代と身の代が交わるとき。

 依り代となった岩石が年々削れている。小さくなったと一目で判るような大きな変化はないが、存在感が弱くなっているように見えた。視覚化すれば揺れている……だからだろうか。マウンテンシューズのかかとを気にしながら彼女は岩石を観察した。精神的に弱っている時期で揺れる存在感に親近感を感じていた。

 時折この場所に足を運ぶ。だから脚力には自信があったのだが、新調したマウンテンシューズは昔一度だけ挑戦した厚底ブーツを思い起こさせた。初めて歩いた時は何とも言えない違和感があったのだ。逡巡も交えながら身の代というわけではないが、岩石の平坦な部分に小銭を置き背を向けた。依り代には身の代が必要だ。そのような考えに至りそうな教えを聞いたのはどこだったか――。

「――空気が澄む。だけど依り代があればの話。贅沢は言えないね、これは移動できないもの」

 必要とする依り代が人肌恋しいという感覚と少しズレていると自覚し始めた頃、亡くなったと思われていた友人が急に訪ねてきたのは何の因果なのだろう。不思議に思いながらも二度と岩石に近寄らなくなったのは言うまでもなかった。

 

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依り代と身の代が交わるとき。 吉野 真衣 @yoshinomai1202

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