第56話 これってデート?
「――ふふっ、楽しみですね
「……はい、そうなのですが……」
「ん、如何なさいましたか先輩?」
「……えっと、そうですね……」
それから、数日経た休日のこと。
そう、言葉通り楽しそうな微笑で話すのは長い黒髪を纏う美少女。僕なんかといるのに、そう言ってくれるのは有り難い。……有り難いの、だけど――
【……あの、
そう、戸惑いつつ尋ねる。と言うのも……今、僕らがいるのは映画館――以前、
「おや、朝陽先輩。それはもう、
「……いや、まあそうなのですが……」
すると、僕の問いにキョトンと首を傾げ尋ねる織部さん。……いや、まあそうなのですが……そうなのですけども――
『――卒然ですが、朝陽先輩。明日、なにかご予定はありますか?』
『…………へっ?』
昨夜、通話にて掛けられた織部さんからの問い。彼女から僕を通して斎宮さんに渡ったチケット――それと同じものが二枚あるから、もし良ければ一緒にという旨で。
……いや、流石にそれはまずいのでは? ご存知かと思いますが、行けないって言ったんですよ? 僕。なのに……いざ当日になったら、同じ場所にいるっていったいどういう――
だけど……うん、最終的には承諾することに。と言うのも、一度購入したチケットはキャンセル不可――そして、今から他の誰かを誘うわけにもいかず、従って僕が承諾しなければチケットが無駄になってしまうとのことで。それなら、そのチケットを二枚とも僕が買い取るという旨を伝えたものの、そういう問題ではないとのこと。……まあ、そう言われてしまえば返せる言葉もないんだけど。
そういうわけで、織部さんと二人で映画という、何とも思いも寄らない状況にあるわけなのですが――
「……ただ、それにしても……」
「ん、どうかなさいましたか先輩?」
「あっ、いえ何でも……」
「……?」
思わず洩れた呟きに、ちょこんと首を傾げ尋ねる織部さん。さっきとは違い、本当に分からないといった表情で。
……いや、まあちょっとした疑問がありまして。と言うのも、休日はだいたい二人とも――あるいは、少なくともどちらか一人は出勤しているわけで。なので、斎宮さんが勤務できない今日は本来、僕が入っているはずなのだけども……どうしてか、今日は二人ともオフになっていて。一応、こんな僕でも多少なり戦力になっていると思うし、二人ともいなくて大丈夫なのか確認してみたところ――
『――うん、もちろんいてくれた方が助かるのは間違いないよ。言うまでもなく、二人とも大事な戦力だし。でも……まあ、一応ね』
そう、仄かな微笑で答える
「――ところで、朝陽先輩。
「へっ? あ、そうですね……」
ふと、そっと袖を掴みそう問い掛ける織部さん。見ると、どこかソワソワ――そして、その
【……はい、是非そうしましょう。僕も、なにかほしいなと思ってましたし】
「……はい!」
そう伝えると、弾かれたようにパッと笑顔を見せる織部さん。僕なんかとでも、出来ることなら楽しんでほしいしね。
「……あの、朝陽先輩。その、私はこういうのをよく知らないのですが……これが、スタンダードなのでしょうか?」
受け付けにて手続きを終えた後、目前のラインナップに視線を注ぎつつ困惑した様子の織部さん。僕にとっては少し懐かしの、個性豊かなポップコーンのラインナップに。……ふむ、なんと返答しようか。はてさて、なんと――
【――おや、見てください織部さん。なんと、期間限定でトゥンカロン味が出ているようです! いやー何とも挑戦的な味ですよね】
「本日一番の眩い笑顔!? あと、
すると、大きく目を見開き声を上げる織部さん。あ、これじゃ返事になってないよね。えっと、他はタピオカ味、ナタデココ味、マリトッツォ味――
ともあれ、僕はトゥンカロン――そして、織部さんは熟考……本当に熟考の末、まるで苦渋のような表情でマリトッツォ味を選択。まあ、それだけ悩むのも仕方ないよね。どれも、とても魅力的な選択肢だし。
「……ふふっ」
「……どうかしましたか、織部さん?」
すると、
「いえ、今更ではありますが……これって、
「……っ!? ……えっと、それは……」
そんな疑問の
「――っ!! 織部さん、こちらへ!」
「……へっ?」
卒然、彼女の手を引き身を潜める。それから、そっと顔を覗かせ窺う。今しがた到着したらしい、美男美女のお二人――斎宮さんと
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