第50話 季節は巡り
麗らかな春の
「――それでは、改めて宜しくお願いします」
「はい、校長先生。
そう、深く一礼しゆっくりと校長室を後にします。何のお話かというと――およそ一週間後に控えた、入学式における新入生代表挨拶のご依頼に関してです。
ところで、余談ではありますが……例年のごとく、昨年の候補者――即ち、入学試験における最優秀成績者へ例の挨拶を依頼したところ、当校史上初めてお断りされてしまったとのこと。まあ、それが
「――君、もしかして新入生? それとも、お兄さんやお姉さんを待ってるとか?」
「……へ?」
校門を少し出た辺りで、ふと頭上から降りてきた問い。見ると、そこにはジャージ姿の爽やかな男子生徒。時期も時期ですし、恐らくは部活帰りなのでしょう。ともあれ、ここで返答すべきは――
「――はい。実は、恋人を待っていまして」
「そっ、そっか……うん、邪魔してごめんね」
「いえ、気に掛けて頂きありがとうございます」
そうお伝えすると、些か残念そうな表情を浮かべ去っていく男子生徒。……まあ、嘘なのですけどね。少し立ち止まり校舎をぼんやり眺めていただけで、誰も待っていません。ともあれ、折角関心を寄せて頂いたというのに……やはり、些かの申し訳なさは禁じ得ないですね。
ところで、嘘というと他にも……いえ、こちらに関しては然したる問題もないでしょう。きっと、そう遠くない内に事実になるでしょうし。
それから暫しして去る間際、再び振り返り校舎を眺めます。これから三年間、甚くお世話になるであろう学び舎――聖香高校の校舎を。
「……やっと、逢えますね――
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