第37話 何だか複雑?

「――よし、これで三勝二敗! ちょっと危なかったけど、何とか勝ちきれた」

「……ふぅ、参りました」



 それから、数週間経て。

 お馴染みの空き教室にて、ミニラケットを片手に弾ける笑顔でそう口にする斎宮さいみやさん。うん、正直この笑顔を見られるだけで負けて良いと思……いえ、負け惜しみじゃないですよ? 


 さて、そんな僕らが今しているのは卓球――少しレトロな当空間にて、中々に存在感を放っていたあの卓球台の出番がとうとうやって来たわけでして。



 ――ただ、それはそれとして。



【……ときに斎宮さん。少し以前から思っていたのですが……こうして遊んでばかりで良いのでしょうか、僕ら】

「ん? 急にどしたの新里にいざと。と言うか、別に遊んでばかりでもないでしょ。ちゃんと勉強もバイトもしてるし、あたし達」

【……ですが、斎宮さん。ひょっとすると、別の世界ではそういった部分はざっくり省かれ、平時の馬鹿馬鹿しいやり取りのみが描かれている可能性も――】

「うん、ほんとにどうした?」

【そして、近いうちに『お前ら遊んでばっかで全然働いてねえな』といったごツッコミが入る可能性も――】

「誰からだよ」


 そう、ほんとに呆れたような表情でツッコミを入れる斎宮さん。……いや、まあその……実は昨夜、そのような夢を見てしまいまして……うん、正夢じゃないよね?



 ――すると、そんな時だった。



「……ほんと、いっつも遊んでんだな、お前ら」


 控えめに扉が開く音と共に、少し呆れたような声が届く。マッシュヘアの美少年、日坂ひさかくんだ。


「……別に、そんなのあたし達の勝手じゃない? 来てほしいとか、別に頼んでないんだけど」

「……あ、あの斎宮さん……」


 すると、彼の方へ視線を向けるやいなや、少し角のある声音こえで答える斎宮さん。……うーん、決して仲が良くないわけではないと思うんだけど……さて、どうしたものか。


 ちなみに、あの日――郁島いくしま先輩の件について日坂くんに告げたあの日以来、彼は幾度かこうして教室ここに足を運んでいる。僕としては歓迎なんだけど、どうやら彼女は僕ほどには歓迎そうではなさそうで……あっ、当然ながら斎宮さんとの二人の時間ももの凄く大切で……うん、誰に言い訳してるんだろうね。


 とは言え、斎宮さんも迷惑だと思っているわけでもなさそうで、最終的には三人でボードゲームなど何かしらの遊びを楽しんだり。本日は引き続き交代で卓球を楽しんだ後、日坂くんは用事があるとのことで先に教室を後にした。


 それから、暫し休息を取った後――ふと、僕の方へじとっとした目を向ける斎宮さん。……あれ、いったいどうしたのだろ――


「――前から思ってたけどさ……随分、巧霧たくむと仲良いよね。新里って」

【……へっ? あっ、いえそんな僕なんかがあの日坂くんと仲が良いなんて大変烏滸おこがましいと言いますかその――」

「評価高えな巧霧!!」

【あっ、もちろん僕なんかがあの斎宮さんと仲良くさせて頂いているのも、本来は驚天動地ほどにあり得ないことであり大変申し訳なく……あれ、そう言えば僕らって仲良しですか?】

「その確認いる!? 流石に傷つくんだけど!!」


 すると、僕の問いに大きく目を見開き言い放つ斎宮さん。……いや、まあその……僕の思い上がりである可能性も皆無とは言えなかったので、念のため……うん、ごめんなさい。


 ……あれ、何の話だっけ………ああ、そうそう――


【……そうですね、少なくとも僕の方では好ましく思っています。口調こそ少しきついと思う時もありますが、実際はとても優しく……あっ、好ましいと言っても決してそういう意味では――】

「……いや、流石にそれは分かってるけど……いや、でもちょっと怪しいか」


 日坂くんに対する印象を伝える僕に対し、何処か胡乱気な瞳を向ける斎宮さん。もちろん、同性愛そういういみであっても何ら問題などないのだけど……それでも、僕がそうでないことは一応ここにお伝えしておきます。



(……まあ、別に敵対してほしいわけじゃないし、仲良いことは良いことなんだけど……だけど、なんか複雑って言うか……)


 すると、軽く頬杖を突きそんな呟きを洩らす斎宮さん。……えっと、複雑とはいったいどういう……あっ、ひょっとして日坂くんと仲良くなることで、いずれ僕が日坂くんの恋を後押しするようになると思っているのでは……うん、何とも否定し難い。

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