第2話 致命的です……

「……ふぅ、少し休憩」



 それから数十分後、自宅のリビングにて。

 少し難しめの証明問題をどうにか解き終えた後、だらりと背もたれに身体を預ける僕。さて、次は英語の長文かな。


 ――昔から、勉強は好きだった。数千年もの歳月をかけて、先人達が積み重ねてくれた知の結晶――その僅か一端にでも触れることで、まだ見ぬ世界へ連れて行ってくれる気がするから。


 だけど、勉強を頑張る理由は他にもある。僕が言葉を発せないのは、なにもクラスメイト達との会話の際だけじゃない。授業中、先生に何か問われても返答すらままならない僕は、きっとそういう部分で成績にマイナスの影響が及ぶ。従って、その分を取り返すためには別の要素――とりわけ、定期テストで好成績を収めることが大事になってくるわけで。


 だけど、そんなプレッシャーも功を奏してかお陰様でテストの成績は上々――手前味噌になり恐縮ではあるけれど、高校の入学試験はトップの成績だったとのことで、学校側から入学式にて新入生代表として挨拶をしてほしいとの依頼を受けた。……まあ、申し訳なくも丁重にお断りしたけれど。教室内での発言すらままならない僕が、壇上から何百もの人達を目の前にしようものなら、声を出すどころか卒倒しちゃうよ。


 そして、言うまでもなく、勉強が出来るだけでチヤホヤしてもらえるほど甘くはない。うちの高校では定期テストの成績上位者が、学年ごとにそれぞれのフロアに貼り出される。なので、その際には有り難いことに、一時的に何人かの生徒から称賛を頂けるようなことはある。


 だけど、それは本当に一時的なもの。学校という世界においてカースト上位に君臨する要素は、容姿やコミュニケーション能力が大部分を占めていると思う。とりわけ、コミュ力は何にも増して重要なのかなと思う。なので、この時点で僕は既に脱落で……まあ、チヤホヤされたいわけでも、上に立ちたいわけでもないんだけど。

 

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