声にならない想いを乗せて
暦海
第1話 声にならなくて……
『――なあ、
『……へっ? あ、あの、その……』
『……ったく、お前っていつもそうだよな。全然、俺らと話そうとしねえっつうか』
『……あ、いや、ちが……』
『ああ、もういいよ。なあ、
中学二年生の、ある夏の日のこと。
話を振るも、一向に返答をしない僕にうんざりした様子の男子生徒。……せっかく話し掛けてくれたのに、申し訳ないことこの上ない。
尤も、こんな
――茹だるような暑さも徐々に和らいできた、九月下旬のある日のこと。
「なあ、
「いや、今日は久々に休み」
「おお、だったらどっか行こうぜ!」
「なに、あんたら遊びに行くの? だったら、うちらも混ぜてよ」
「おお、全然オッケー。それじゃ、どこ行く?」
「そうだな……カラオケ、とか?」
「意義なーし」
京都市内の公立校、
放課後、中央付近で和気藹々と談笑を交わす男女生徒達。いわゆるトップカーストと呼ばれる、クラスの中心的存在の生徒達――そして、言うまでもなく僕のようなコミュ障な陰キャラとは全く別世界の方々で。……まあ、羨ましいかと問われれば、別段そうでもないんだけど。
……まあ、それはそれとして。
「……何? さっきから、じっとこっち見て」
「あっ、いえ……その……」
卒然、右隣の席から僕の方をジトリと見つめそう問い掛ける女子生徒。……いや、卒然でもないか。そもそも、僕が彼女の方をじっと見ていたわけだし、そりゃ怪訝に思……と言うより、普通に気持ち悪いよね。
未だ何も答えられないでいる僕に、鋭い視線を向け続ける彼女は
そんな彼女であるからして、当クラスにおいてやはりトップカースト――今も談笑を続けている、リーダー的存在の彼らと一緒にいることが多い印象がある。なので、彼女も遊びに行かなくて良いのかな――なんて、何とも余計なことを考えていた次第でして。
「……なにもないなら、もういくね」
「……あ、えっと……はい」
すると、暫し間があった後、呆れたような溜め息と共に徐に立ち上がり歩いていく斎宮さん。そして、扉付近にてこちらを一瞥し教室を後にし……しまった、せっかく待ってくれていたのに、結局何も言えなくて。……うん、ほんとにごめんなさい。
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