生きたいわたしは自傷する
とてつもないあい
生きたいわたしは自傷する
生きたかった。左腕の痛みも、うねる視界も、作業の嘔吐も、息をするためだった。忘れたかった。あの時のこと。あの頃のこと。昨日のこと。2時間前のこと。今のこと。なかったことにしたかった。記憶ごと全部グチャグチャになって、冷や汗で起きる日を減らしたかった。1錠1錠がわたしの命綱で、苦い錠剤がまるでわたしの記憶みたいで、割らないように溢れないように飲み込んだ。冷たい水で飲んでいるのに喉が熱かった。ジンジンと焼けるように流れる苦い記憶。ジンジンと腕が痛む度にほっぺたに流れるたすけて。ただひたすらに縋っていたかった。無宗教を恨んだ。神様なんていないと叫んだあの日から、目の前にモヤがかかった。コンプレックスを笑われることも、約束を破られることも、毎秒見定められることも、すべてがボヤけていたからこわくなかった。くるしいをくるしいで上書きした。痛みを痛みで上書きした。ね、だけどねえ、わたし本当はこわかったよ。順風満帆にみえたあの子が長袖ドレスしか着ない理由知っちゃったからさあ、常にお酒飲んでたあの子がお酒好きじゃないこと知っちゃったからさあ、わたしのちっぽけなしにたいが、霞んで、沈んで、消えない心臓の引っ掻き傷でさえダサく思えて、口角上げた。生きたかった。眠る瞬間、このまま2度と目が覚めなくてもいいと思った。目が覚めてもいいと思った。どっちでもよかった。遺書に書きたいことすら思いつかなくて、最期に食べたいものすら思いつかなくて、どうでもよかった。身体の奥を雑に刺されても痛くなんてなかったけど、心臓の引っ掻き傷の奥が疼いた。でもね、わかってたよ、本当はさあ、ずうっと、目を逸らしていただけだった。ボロボロの内臓と止まらない体液に安心していた。不幸であることに依存していた。不幸であることを自分のせいにしたくなかった。他に理由が欲しかった。真っ赤な左腕が許してくれている気がした。ずうっと無視してきた。ずうっと、目を合わせられなかったね。幸せであることは、不幸であることよりもずうっと、ずうっと、こわいから。くるしいをくるしいとして受け止めることはこわいから。しにたくない思うことを見ないフリしないで。しにたいと思うことを見ないフリしないで。割れた鏡でちゃんと見て、わたしの本当を。
臆病で、よわくて、ちいちゃなわたし、全部全部全部全部憶えていてあげる。忘れないよ、痛かったこと全部。だから、どうか、明日の天気のことを考えて眠りにつく日が訪れますように。雨が降っていてちょっぴり残念がれる朝が訪れますように。どうか、ここまで読んでくれたあなたが、幸せを恐れませんように。
生きたいわたしは自傷する とてつもないあい @nzxzxz
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