試験勉強と内緒の話
孤兎葉野 あや
試験勉強と内緒の話
「よし、何とか時間内に解き終わった・・・! 残り何分かな。出来るだけ見直しを・・・」
解答用紙が全部埋まったことを喜ぶ暇もなく、時計の針を見ながら、不安なところを確認してゆく。
だけど、全部確かめる時間なんて無くて、いくつかの問いと答えに目を通したところで、アラームがぴぴぴ・・・と鳴った。
「ふああ・・・疲れた・・・」
集中が切れると同時に、机に突っ伏して、お腹の底から出てきたような声が漏れてしまう。
ここが本物の試験会場なら、周りの注目を集めてしまいそうだけど、私の前にあるのは問題集と、付属の解答用紙だ。
高校受験というものが、だんだんと近付いてきている今、本番さながらの雰囲気に慣れておくと良い・・・というのは、
私を応援してくれる、お姉さん達の意見が一致するところだし、きっと本当なんだろう。
「りいねちゃん、お疲れ様!」
どうにか身体を起こしたところで、ドアがこんこんと叩かれて、詩織さんがお店のほうから顔を出してくれる。
「あ、ありがとうございま・・・」
お礼を言いかけたところで、横からひゅんと光が走るように見えて、そのまま私のもとへと、一目散に飛んできた。
『りいね、おつかれさま!』
「ひゃっ、くすぐったいよ、ルリ・・・うん、ありがとう!」
可愛い声が聞こえるのと同時に、ぽふんと音を立てて、私と繋がりを結んでくれた妖精のルリが、頬に抱き付いてくる。
小さな身体の全部を押し付けてくるような、その温かさを感じていると、試験勉強の疲れも吹き飛んでゆく気がした。
「あはは・・・ルリちゃん、お花のところに座りながら、りいねちゃんのことをずっと気にしてたからね。早くそうしたかったんだろうなあ。」
「まったく、落ち着きのない子よね。また何かやらかさないか、心配になるわ。」
詩織さんが微笑むそばで、その肩にちょこんと座る妖精のルルティネさんが、ため息をついている。
二人が開いたこのお花屋さんは、人間のお客さんだけじゃなくて、ほとんどの人には見えないけれど、お花が好きな妖精さんも集まってくる、とても温かい場所だ。
「まあまあ。りいねちゃんと一緒なら、大丈夫じゃないかな。」
「シオリの考えが甘いのは、よく知っているけれど、今のところは確かにそうかもね。」
「ルル、どうしてこの流れで私がダメージ受けるのかな?」
とっても仲が良くて、お話を聞いていると楽しい気持ちになってしまう二人は、私とルリにとっての憧れと言えるのかな。
「あ、あの、詩織さん、ルルティネさん。試験の準備は一段落したので、もしよかったら、お花屋さんの勉強を・・・」
「うん! もちろん教えてあげるけど、その前にちゃんと休憩も取らないと。
お茶を持ってくるから、しばらくゆっくりしてね。」
「は、はい! ありがとうございます!」
私もルリも、二人とこのお店に助けてもらって、いつかお手伝いがしたいと思っているけれど、
まだ中学生の自分には、勉強しなきゃいけないことがたくさんあるみたい。
まずは高校受験が大きな目標だけど・・・ただ悶々と勉強するんじゃなくて、こんな素敵な場所があるのは、とても幸せなことなんだろう。
将来はお花屋さんで働きたい、という夢と共に、この場所で勉強させてもらうことを話したら、お母さんは最初びっくりしていたけれど、今は喜んでくれているし・・・
「りいねちゃん、お待たせ!」
「あ、ありがとうございます!」
『いいにおい!』
「妖精が触れても、大丈夫なものばかりだから、楽しみなさいな。」
程なくして、詩織さんが持ってきてくれた温かい紅茶と、手作りのお菓子を味わいながら、幸せな休憩の時間を過ごした。
*****
「りっちゃん、また成績が上がってない?」
学校で試験の結果が返された後、クラスメイトが声をかけてくる。
「ほんとだ! すごいなあ。」
「ねえねえ、何か秘訣でもあるの?」
「うーん・・・やりたいことが見付かったから、かな。勉強する理由があると、気持ちも違ってくると思うよ。」
そんな答えを返したら、皆も一応は納得してくれたみたい。もちろん、今言ったことは本当なんだけど・・・
『ルリと、あのお花屋さんのことは、学校では内緒だからね。』
『うん、ないしょ!』
制服のポケットから、そっと顔を覗かせるルリと微笑み合う。
飛ぶことだってできるし、そもそも人には見えないはずだけど、学校に付いてきてくれる時は、こんな風に隠れているのが、ルリのお気に入りだ。
明日はお休みの日だから、お花屋さんに行って、勉強と楽しいお話もたくさんしよう。そう考えるだけで、待ち遠しい気持ちになって、ルリともう一度笑い合った。
試験勉強と内緒の話 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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