発音がネイティブすぎて、聞き逃すところだったが、どうやら心配してくれているらしい。だが、英語は一般教養レベルしか理解できていないため、伝わるか不安だ。

「イエス、ノープログレム」

「ん?もしかして、あなた、日本人?」

「…え?日本語が話せるんですか?」

「少しだけなら、私の父親が日本人で、日本に滞在していたこともあるわ」

 少しと言うわりには滑らかな口調で、聞き取りにくいといった問題は一切ない。

「それにしても、上手ですね。どれくらい滞在していたんですか?」

「えっと、滞在は一年だけかな、十年も前の話になるけどね。日本語は、訳あって日本について調べたときに勉強したの」

 十年前ということは俺が十歳のときか。あまり鮮明な記憶はないが、その頃英語に興味を持った気がする。あれは、なんでだったかな?

 しかし、なにはともあれ、俺は喜びを伝えずにはいられなかった。

「こんな島で人に会えただけでも奇跡なのに、まさか日本語で会話までできるなんて、そんな偶然あるんですね」

「…偶然。そうね、私も嬉しいわ」

 反応が少し遅れて返ってきた。早口すぎたか?話せても、ヒヤリングまでいいとは限らないし、これからはゆっくり話すようにしよう。

 だが、俺たちの現状を鑑みれば、身の上話をしている場合ではないというのが正直なところだろう…。

「ところで、あなたがこの島に来たのはいつ?」

「え?そうですね…。いつから来たかを聞かれると、はっきりとは答えられませんが、俺が目を覚ましたのは昨日の昼間です」

「その言い方は、自分の意思でここに来たわけではない、と捉えていいのよね?」

「そうですね。目を覚ましたら、ここにいました」

「…もう一つ、質問したいのだけど。あなたは、世界一周旅行の船に乗っていた乗船客で、間違いないのかしら?」

 なぜそれを知っているのかと思ったが、考える間もなく気付いた。そうだ、こんな島にいるんだから、理由は一つだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る