⑩
草木で溢れる、道無き道は続き、数十分ほど経過したところで、見晴らしのいい空間が現れた。
「これは、建物か…。なんで、こんなところに…?」
素人目だが、その館は豪邸と呼ぶに相応しいと思えるほどに感じた。無人島に似つかない金網も、タイルも、鉄柵もすべてはこの館を取り囲むものだったようだ。
次に俺が視界に収めたのは、館の入り口と思われる場所と門だった。
門は開け放たれていたため、館には難なく侵入できそうだが、好奇心のあまり見逃すところだった。
この門の周辺には、無数と言えるほどの足跡が存在した。四方八方へと広がる足跡は、到底一体のものとは思えなかったが、これがいつ付けられたものなのかが、わからない以上、結論付けるのは早い気がした。
しかし、これだけでも、足を留める理由には十分だ。この事実を踏まえた上で、無人島での暮らし方を考えるのも、いいのかもしれない。
そんなことを考えて、来た道を後退さろうとすると、背後からなにかの足音が聞こえてきた…。
恐怖を感じた俺は振り向くことができず、立ち尽くすことしかできなかった。迷っていると、すでに、気配はすぐ後ろにまで近付いて来ていた…。
後ろの気配から伸びてきた手は、俺の口元を覆い、草木の中へと引きずり込んだ。
その手はゾンビというには、やけに白く艶やかで、小さい手だった。しかし、ガッチリと押さえ付けられてしまい、その正体はわからず、黙って視線を前方に向けていた。
この高さでは、茂みしか見えないが、隙間から開け放たれた門近くの様子が、少しだけ見えた。そこには、屋敷から門を抜け、森へと歩いていくゾンビの姿があった。どうやら、ゾンビは昼間でも、問題無く行動できるようだ。
そこで、今朝の経験から、ゾンビが物音に過剰な反応をみせることを踏まえると、今俺の口元を覆い、押さえつけている存在は、俺を助けてくれたことになるのかもしれない。
ゾンビの姿が見えなくなり、しばらく静寂が続くと、ようやく口元が解放された。
恐る恐る、振り向くと、青眼の金髪女性が心配そうにこちらを見ていた。
「Sorry.… all right?」
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